第16章 愛の言葉を聞かせて/天童覚
覚くんは家に置いてあるお泊りセットのスウェットを着ていた。暑かったのか腕まくりして寝ている。
スウェットから伸びる筋肉質な腕が、がっちりと私の体を抱きしめている。
狸寝入りなのか、本当に寝ているのか判別はつかなかった。
仕方なく横になって覚くんの寝顔を観察することにした。
下ろされた前髪が重力で枕の方に流れている。
普段どれだけワックスで固めてるんだろう。こんなに綺麗な髪なら下ろしていてもいいのに。
そっと、長い前髪に触れる。
静かにかきあげると現れる細く短い眉。
元から毛量が少ない上に、自分で手入れするものだからちょこんと乗っかってるだけに見える。
だけど意外とこの眉はよく動くのだ。
覚くんのくるくる変わる表情に合わせて、上に行ったり下に行ったり、片方だけ動いたり、きゅっと真ん中に寄ったり。
開けばぎょろりとして零れ落ちそうな大きな目も、常に口角の上がっている緩い口元も、全部好きだ。
細そうに見えて意外とがっちりした体だったり、思いもよらないことをしでかしてくれたり、考えも行動も、なんだかんだ好きだ。
こうやって手の届く距離にいられる時間が、あとわずかしかないのだと思うと息が止まりそうなほど胸が締め付けられる。
「覚くん……」
貴方は分かってる?
私がどれほど貴方のことを想っているのか、分かってる?
そっと指先で覚くんの輪郭をなぞる。
こうやって触れられるのもあとわずかだ。
指先の感触を記憶に刻み込むようにゆっくりとすべらせていくと、頬のあたりまで撫でたところで突然親指をかじられた。
「!」
私の親指を咥えた覚くんと目が合う。
大きく開かれた覚くんの目は、爛々として私の様子をうかがっている。
これ、は。反応しちゃダメなやつだ。
なるだけ平静を装って黙って覚くんを見つめる。
「ふぅーん?」
覚くんの口端が片方だけ上がって、意味深な笑みを浮かべた。
「!!」
ぬるりと親指を舐めあげる舌が、妙に熱く感じる。
背中をかけめぐるぞわぞわとした感覚に思わず目を閉じて身震いしてしまった。
覚くんはその反応に気をよくしたのか、また指先をねっとりとした感触がおそう。
それと同時に、もぞもぞとシャツの中を覚くんの手が這い出し始めた。
ぞわぞわしている背中の真ん中を指先でなぞりあげられると、たまらず声を漏らしてしまう。