第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
繋心さんとだったら、理想の“家族”をつくれるかもしれない。
そう、思ったんです。
私は、世間でいう一般的な家庭というものを知りません。
記憶に残っていないほど幼い時に両親を亡くし、それからじっちゃんに育ててもらいました。
家族がじっちゃんだけだったからイジメられたとか、嫌な思いをしてきた、とかそういう事はほとんどありません。
むしろじっちゃんは1人で私にたくさんのことを教えてくれましたし、近所の人も一緒になって私の面倒を見てくれたので、寂しい思いをすることはあまりありませんでした。
だけど、どうしても運動会や参観日などの学校行事や、出かけた先なんかで両親のそろった他の家族を見ると、羨ましく思えたのも事実です。
人は、手に入れられないものに対して、諦めるか、執着するか、どちらかの行動をとります。
私の場合、後者なのだと思います。
たった一度、子供に接している姿を見ただけの繋心さんとの“家族”を夢見てしまったんです。
それを実現するのに必要なピースを、じっちゃんがそっと埋めてしまった。
『これも何かの縁じゃないかねぇ』
じっちゃんの言葉をいいように思い込みました。
繋心さんと出会ったのは、運命なのだと。
何がしかの縁があるから、こうして出会って繋がれたのだと。
ここまできたら、手に入れるためにはどんなことだってやろう。
繋心さんと家族になりたい。
私はその想いでいっぱいになってしまったんです。
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懺悔のような独白のような彼女の長い話を聞き終えて、何か言葉をかけようと思ったものの、口が開くばかりで音のひとつも出て来やしなかった。
何も言えないでいる俺に、さんはますます申し訳なさそうな顔になっていく。
「ごめんなさい。私の気持ちを押し付けるばかりでしたよね。……あの日も、繋心さんにあんな事をさせてしまって。…あの夜、わざとあんな事したんですよね? 私に、諦めさせるために」
あの夜、と言われて思い浮かぶのはひとつしかない。
さんに思い知らせようとベッドに押し倒した時のこと。
鮮明に脳裏に浮かぶ映像と感触に、少しばかり体温が上がった気がする。
あれが「わざと」だと、彼女は気づいていたのか。