第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
しばし呆然としていた子供がハッとした顔で、恐る恐るではありましたが、「ありがとう」と言うと、男性は歯を見せて笑いました。
「おう、ちゃんと礼が言えるなんてエライぞ。大声出しちまってごめんな」
ニカっと笑う男性の姿は、私の目に焼き付いて離れませんでした。
気が付いたら、私はじぃっとその男性の姿を目で追っていました。
しばらくその場で、男性が病院の中へ戻っていくのを見つめていました。
その日はじっちゃんは何も言いませんでした。
しばらくして、お見舞いに行った時に、じっちゃんに一枚の写真を見せられました。
ご想像の通り、そこに映っていたのはあの日の金髪の男性──烏養繋心さん──でした。
どうして、と私が口を開く前に、じっちゃんが言いました。
「その人のおじいさんとたまたま知り合いになってね。これも何かの、縁じゃないかなぁ」
そう言って私に写真を渡して、じっちゃんは繋心さんと見合いをする気はないか、と言い出したのです。
「私も先は長くない。お前ひとり残していくのは、やはり心配だから。誰かいい人がいればと前から思っていたんだよ」
「いやだ、じっちゃん。何を弱気なことを言ってるの?」
「先生にも言われたよ、そんなに長くないと」
「やめてよ。じっちゃんは長生きするんだよ。それこそ私の子供抱っこするくらいまでさ」
じっちゃんの病状がおもわしくないのは事実でした。
でもハッキリと余命を宣告されたわけではありませんし、体調を崩すことが多くなり気弱になっていたので、そういうところからくる発言だろう、と受け止めていました。
「……最近はな、起き上がって動くのも辛くてな。自分のことは、自分が一番分かる。いつ別れがきてもおかしくはない。だから、その前に……」
微かに震えながら伸ばしてきたじっちゃんの手を、思わず握りしめていました。
握った手は、昔に比べて随分と弱弱しい手になっていました。
それから、私はじっちゃんの言葉に囚われてしまったのかもしれません。
じっちゃんを安心させてあげたい。
じっちゃんの望みを叶えてあげたい。
だけど、だからって結婚相手は誰でもいいというわけではなくて。
この写真の、繋心さんのように、ちゃんと子供を叱って、でもちゃんと褒めることもして、二ッと笑って頭をなでてあげられるような、そんな人とだったら。