第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
けれどやはりお互いまた沈黙で。
どちらが先に口を開くか、と事態が膠着しかけたところで、横から「あっ」と大きな声が聞こえた。
「お父さん、この人だよ! お花をくれたの!!」
見れば、さっき病院前で花束を渡してやった子供が、後ろに父親らしい男性を連れて立っている。
「先ほどこの子から話を聞きました。私の教育不足でよそ様に注意させてしまい、申し訳ありませんでした」
「おじさん、ごめんなさい」
父親と子供は2人して深々と頭を下げた。
『おじさん』には少々引っかかったものの、丁寧に謝罪をよこすその姿勢に免じて目をつむることにした。
「その上立派なお花までいただいてしまって。どなたかのお見舞いにお持ちになったものでしょう? これ、少ないですが……」
言って父親は茶色い封筒を寄越そうとする。
中身は、なんて聞かなくても分かる。
いくらか包んであるのだろう。
「いえ、いいです。こうしてお礼を言ってもらえただけで十分です」
父親が差し出した封筒を手のひらでそっと押し返す。
瞬間、父親の顔が困った顔になる。
「そうは言いましても」
「本当に、お気持ちだけで結構です」
俺も父親も譲らなかった。
封筒の押し付け合いが数度あり、最終的にはカフェの支払いを父親が持つということで決着した。
「本当にありがとうございました」
そう言って父親と子供は立ち去って行った。
親子の後ろ姿を見つめたまま、さんが口を開く。
「繋心さん、やっぱり貴方は繋心さんなんですね」
彼女の言葉の意味がすぐには理解できなかった。
俺が俺だって、どういう事なのか。
至極当たり前のことを言っているわけではなさそうだった。
彼女の言葉にこめられた真意を探るように、さんの顔をじっと見つめた。
「……私、繋心さんにひとつだけ嘘をついていたんです。ごめんなさい」
「嘘?」
バツの悪そうな顔で、俺の顔を上目遣いで見ている。
彼女が俺に嘘をついていた、そう言われても見当がつかない。
先ほどの発言からして、さんの言わんとしている事がいまいち理解できない。
含みを持った言い方をするなんて、彼女らしくない。