第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
この間までのように、猪突猛進でぶつかってこないさんに違和感を覚えながらも、彼女の次の言葉を待った。
「私、繋心さんとは初対面じゃないんです。...ここ、病院で何度かお会いしてるんです。一方的に私が見かけていただけだから、繋心さんは知らないでしょうけれど」
彼女のじいさんもこの病院に入院しているという話だったから、俺とどこかですれ違っていてもおかしくはない。
だが、その事を隠す理由が分からない。
「そうなのか。なんでそんな嘘をついた?」
率直に問いをぶつけると、彼女は困った顔をする。
「うちのじっちゃん、入院してから気弱になっちゃって。私の花嫁姿が早く見たい、って口癖のように言うようになったんです。
それで私、早く結婚相手見つけなくちゃって思って……。
だけど、始めからそんな事言ったら重たいでしょう?病院で一目惚れしたって話してしまったら、じっちゃんの事もおのずと分かってしまうと思って。
もちろん、いつかお話しようとは思っていたんです」
ごめんなさい、とまた彼女は謝る。
分かってしまえば、どうということのない理由だった。
確かに初めて会った時に、じいさんの話を持ち出されていたら、重く感じていたかもしれない。
だがどちらにせよあれだけ強引に俺に結婚を迫っていたのだから、結果としてはそう変わらなかったような気もする。
話の中で、彼女が結婚を焦っていた理由もようやくこれで分かった。
じいさんに花嫁姿を見せるため、とにかく結婚がしたかった。
主な理由はそれだ。
……じゃあ、別に相手は俺じゃなくても良かったって事だよな。
たまたま病院ですれ違って、たまたまじいさん同士が知り合いになっただけで。
別に俺じゃなきゃいけない理由なんて、どこにもないんじゃないか。
そう思うとなぜか無性に腹が立ってきて、さんの顔を真っすぐ見られなくなってしまった。
「でも、誰でもいいって訳じゃなかったんです。早くじっちゃんの望みを叶えてあげたいとは思ったけど、だからといって誰彼かまわず結婚するつもりはありませんでした」
まるで俺の心をのぞいたかのような発言に、そらしていた視線が彼女に釘付けになった。
きっと驚いた顔をしていただろう俺の顔を見ながら、さんは言葉を続けた。