第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
「そんなこと言ってっと、結婚しそびれるぞ」
「今は昔と違うんだぜ、じいさん。じいさんの頃は結婚して子供増やしてってのが務めだ、当たり前だってされてたのかもしれねぇけどよ。今はそうじゃねぇ。選択肢が増えてんだ。家庭をもつことだけが人生のすべてじゃねーんだ」
俺は何も間違ったことを言っちゃいないはずだ。
大体今の世の中だってそういう風潮じゃねぇか。
結婚する選択肢もあれば、しない選択肢もある。
子供を持つ選択肢もあれば、持たない選択肢もある。
こうでなければいけない、なんて画一的な考え方は、今はもう古いもののはずだ。
それなのに、なんで俺は自分の言葉が空虚なものに感じているんだろう。
自分で口にした言葉なのに、どこか上っ面を撫でているような気がするのは、何故だろう。
「お前、一生独身のつもりなのか?」
「…そうじゃねーけど」
別に結婚したくないってんじゃない。
これから先、そういう気持ちになることもあるかもしれない。
「いつかは家庭を持つことを考えるかもしれねぇけどよ。今じゃない。いずれタイミングが…」
「なんだ、そうか。遅いか早いかなら、早い方がいいじゃねぇか」
俺の言葉を最後まで待たずに、じいさんは口を開いて矢継ぎ早に話し始めた。
…せっかちなところが、年を取るたびに酷くなっている気がする。
「タイミングなんてこと言ってっと、機会そのものを逃すぞ。人生ってのはな、繋心。巡りあわせで出来てんのさ」
「……」
「お前が烏野のコーチに就いたのも、あの先生やチビ助達がいたからだろう。結婚だってそれと同じだ。今巡り巡ってお前とさんは出会った」
「だから、結婚しろって? 俺とさんの気持ちは置き去りでか?」
いやみっぽく返すと、じいさんは首をかしげた。
おかしいな、と呟いて、じいさんは続ける。
「なんだ、お前の母さんからさんはもとより、繋心もまんざらでもなさそうだと聞いとったが?」
俺の知らないところで、母さんとじいさんは見合いの話をしていたらしい。
まんざらでもない、か。
確かに始めは押しの強さに閉口していたが、最近ではそれすら受け入れ始めていたようにも思える。
なんだ、俺は結局どっちなんだ。
彼女に対する態度と同じで、俺の気持ちもどっちつかずでフラフラしている。