第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
「で、さんいくつよ?」
「22」
「はぁっ?! 若っ!!」
「おいマジで?! なんでそれで付き合わねーんだよ、もったいねー!!!」
ぶっきらぼうに答えた俺の背中を、滝ノ上が叩く。
酔っぱらってるからか憎しみがこもってるからか知らないが、めちゃくちゃ痛かった。
「んな事言ったって。俺まだ結婚する気ねーもん」
「…繋心、よく聞け? 俺らも26だぞ? あと4年で30だぞ」
嶋田はわざわざ俺の顔の前に大きく手を突き出して、指折り数えた。
うちの母ちゃんと同じようなことを言う嶋田に、母ちゃんの顔がダブって見える。
「まだあと4年もあんじゃねーか」
「甘い、甘いぞ繋心! お前、今の環境で女性との出会いが期待できるか? 地元にいる限り、新しい出会いってのはそうそう期待できるもんじゃない! お前今の自分がどれだけ恵まれてると思ってんだー!!」
ドン、と手にしたジョッキを机に置いて嶋田は目を据えて俺を見た。
隣に座る内沢さんも、うんうんと頷いて同意を示している。
「うちに来ねーかな、さん」
「すげぇいい嫁さんになってくれそうだもんなぁ」
頷き合う嶋田達に、最年少の行成が声を上げた。
「でも…今の状況ってそのさんにとってめちゃくちゃ酷な状況じゃないっすか?」
「……」
最年少ながらに、行成は痛いところを突いてくる。
そうだ。
俺は彼女に酷な仕打ちをしている。
彼女の望みをかなえるつもりもないくせに、ズルズルと家に来させているのは確かで。
「結婚も、付き合うつもりもないなら、もっとハッキリ拒否してあげないと、相手の子、可哀想です。22なら、きっとすぐ次にいけると思うし。繋心さんが繋ぎ止めてる分、その子前に進めないんですよ」
正論にぐうの音も出ない。
さんの貴重な時間をつぶしている自覚はある。
だけど……
「そういう気はねぇって、何度も言ってる。だけど向こうが諦めてくれねぇんだよ」
「…そりゃ、お前にまだどっか隙があるからじゃねーか? “押せばイケそう”感がどっか漏れてんだろ、多分」
隙、か。
そう言われるとそうなのかもしれない。
口では拒否しつつも、結局家に招き入れてるっていうのは、そういうことなのかもしれない。
なんだ、俺。
完全に拒否しきれねぇってのは、もしかして、どっかで。