第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
いや、そんなはずねぇ。
考えれば考えるほどイライラしてきて、自然とタバコに手が伸びた。
「……ったく、どうすりゃいいってんだよ」
吐き出した煙が、壁にぶつかって形を変える。
ハッキリとした形を保てない煙は、まるで俺の今の気持ちみたいだった。
ゆらゆら揺れて消えていくだけで、掴もうとしても掴めやしない。
「本当にお前にその気がねーなら、ちょっと怖い思いさせてでも諦めさせたら?」
滝ノ上の提案を聞いて、先日の車内での出来事が脳裏に浮かんだ。
今にも手を出してやらんばかりの目をして、押し倒しかけたというのに、さんは怯むどころか斜め上の発言をしてのけた。
そのことを思い返すと、またこんなことで悩んでるのが馬鹿らしくなってくるんだから、不思議だ。
「……脅しも効かねーよ、アイツには」
困った顔で煙を吐く。
ゆらゆら漂う煙はやっぱり不定形なまま、どこかへ消えていった。
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「行成、ありがとな」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
行成に車で家まで送ってもらった時には、時間はすでに深夜を回っていた。
あたりはひっそりと静まり返っていて、虫の声だけが時折聞こえる。
店の前から家の玄関の方へと周り、鍵を取り出そうとポケットに手を突っ込んだ。
「ん?」
いつもなら突っ込んですぐ硬い鍵の感触にたどりつくのに、今日はいくらポケットの中を探っても何もない。
反対のポケットも、パーカーのポケットも探ってみたものの、鍵はどこにも見当たらなかった。
「マジか……忘れてきたのか?」
玄関のドア開けようと試みるも、結果は予想通りでピクリともしなかった。
家の中はしんと静まり返っている。
こんな時間だ、母ちゃんももう寝てしまっているだろう。
家に電話をかけて母ちゃんを起こすか、携帯で誰かを呼ぶか、どちらにしようか考えていた時だった。
カチャリと玄関の鍵があいて、カラカラとゆっくり玄関が開いた。
「…おかえりなさい」
「帰ってなかったのか?」
玄関から顔を出したのはさんで、まさかそこにいるとは思っていなかったから、驚いてしまった。
「あの、こんな時間までいるのは失礼だと思ったんですけど……」
「…まぁいいや。とりあえず上がらせてくれるか」
「あっ、はい」