第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
「いえ、ご相伴にあずかるわけには……」
妙なところで遠慮をする子だ。
ここまできたら、食って帰ればいいものを。
「食べていきなさいよ。ちゃんが作ったものだし。今日は朝から色々手伝ってもらってるのに、ご飯も食べさせずに帰らした日には、私らご近所さんになんて言われるか」
ほらほら、と母ちゃんに背中を押されて、さんは申し訳なさそうにちょこんと俺の隣に腰を下ろした。
「いただきます」
ほかほかと湯気の上がっている、飴色の玉こんにゃくを口に放り込む。
いつも母ちゃんが作る椎茸と厚揚げと煮込んであるやつも好きだが、この豚肉と煮込んであるやつもうまい。
ゆで卵も一緒に転がっていて、味のしみた卵もまた格別だった。
「うまっ! こりゃ酒飲みたくなるな」
「あんた今日は飲むんじゃないよ。ちゃん家まで送ってあげないと」
「えっ、大丈夫ですよ、私。バスに乗って帰れますし」
朝の勢いが嘘なくらい、しおらしい態度に違和感を覚える。母ちゃん達がいるからだろうか。猫かぶってんのか?
そんなことを考えていたら、ちゃぶ台の下で母ちゃんに足をつねられた。
「いって!」
「ご飯食べてたら遅くなっちゃうし。送ってもらいなさい。ね、繋心?」
「わかったよ……帰り何かあっても困るしな。送ってく」
「…すみません。お言葉に甘えます」
「ん」
俺とふたりきりの時とは違う、しおらしい彼女の態度に、いつもこのくらいしおらしければちっとは楽なんだが、と頭を掻いた。
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「悪ぃな、しゃれた車じゃなくてよ」
白い軽トラに乗り込んで、エンジンを回す。
キュルキュルと音がするものの、すぐにはエンジンはかからない。
普段からいう事を聞かない車だが、こういう時は気を回してさっさとエンジンをかけさせてくれと思う。
「いいえ。すみません、疲れているところ送ってもらって」
「大して疲れてねぇし。気にすんな」
何度かキーを回して、ようやくエンジンがかかった。
おおまかな家の場所を聞いて、車を走らせた。
「悪い、タバコ吸ってもいいか?」
「どうぞ」
赤信号で停車中、タバコに火をつけた。
了承はとったものの、煙を車内に吐き出すのはためらわれて、窓を開けて外に吐き出した。