第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
「ホントにあんた恥ずかしげもなくよく言えるよな。ある意味感心するわ」
「それほどでもないですよ」
「いや、褒めてねぇし」
彼女とのこういうやり取りも慣れてきたのか、そう言いながらも俺の口元は緩んでいた。
軽く笑うと、さんは宝物を見つけた子供みたいにまた目を輝かせた。
「な、なんだ? なんでそんな目で俺を見てんだ」
「だって! 繋心さんの素で笑ったところ、間近で見られたから」
「……っ」
また。
そうやって恥ずかしげもなく、そういう事を言う。
これが計算なんだとしたら、さんは相当な悪女だ。
だけど、どうもそうは見えなかった。
大体嘘をついてまで俺に取り入る必要性がないし、彼女にとって何の利益もない。
いまだに何で彼女が結婚に執着していて、俺との付き合いを望むのかは不明だったが、目の前で嬉しそうに微笑むその笑顔だけは、信じてもいいような気がしていた。
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夜、バレー部のコーチの仕事を終えて帰宅すると、案の定彼女の姿があった。
「繋心さん、おかえりなさい!」
ご丁寧に可愛らしいピンクのエプロン姿で出迎えてくれたさんに、もはやツッコミを入れる気力もなかった。
「……ただいま」
さんが台所に戻ると、母ちゃんとさんの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
うちの母親とはもう仲良くなってしまたらしい。
相手の懐に飛び込んでいくその行動力は称賛に値すると思う。
「繋心さんの好きな玉こんにゃくもありますから!」
言われて、ちゃぶ台に並べられたおかずを見れば、確かに俺の好物の玉こんにゃくもあって。
こっくり飴色に輝く玉こんにゃくは、見てるだけでごくりと唾を飲み込みたくなるほど美味そうだ。
「あんた早く手洗っといで。せっかくちゃんが作ってくれたご飯が冷めちゃうだろ」
母ちゃんに急かされて、手洗い場へと急いだ。
居間に戻ってくると、さんは帰り支度を始めていた。
「あ? 食っていかねぇの?」
思わずそんな言葉をかけてしまっていた。
俺は何を言っているんだろう。
その気なんてねぇんだから、さっさと帰ってもらった方がいいてのに、わざわざ引き留めるようなことを言って。