第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
ふとそこで、意地の悪い事を思いついてしまった。
もしかしたら少しはこれで彼女の意気を挫くことが出来るかもしれない。
「……あー…じゃあよ、とりあえず手伝ってくれや。話は、それから考えるわ」
「! はい!!」
あーあ。
嬉しそうにしちゃって。
これから何させられるかも分かってねぇくせに。
「ほんじゃ、コイツの駆除頼むわ」
籠の中の割り箸と小さなバケツをさんに渡す。
きょとんとした顔の彼女にとどめを刺すように、俺はキャベツの上でうごめく青虫を指さした。
「卵があったら葉の上でいいから潰しといて。あ、たまに毛虫もいるから気を付けろよ」
さぁどうだ。
接客や料理ならいざ知らず、虫好きなやつなんて若い女の中にそうそういねぇだろ。
表面上取り繕って虫退治したって、これが毎日続くんだって思えば、いつかボロを出すに違いない。
悲鳴のひとつでもあげてくれりゃ、ほれ見たことかと追い出せる。
「任せてください!!」
どん、と胸を叩いてさんは虫の駆除に乗り出した。
想像していたのと全く違う反応に焦る。
が、いつ嫌な顔を見せるかとチラチラと横目で確認しながら俺もえんどう豆の収穫作業を始めた。
ところが、彼女は悲鳴ひとつあげやしなかった。
それどころか、手際よく箸で青虫を掴んではバケツに放り込んでいく。
ちゃんと卵が産みつけられやすい葉の裏側まで確認して、また次のキャベツへと移る。
虫が苦手とかそういう次元じゃなかった。
どうも、こういった作業に手慣れている風だ。
「……あんた、慣れてんな」
「私、じっちゃんの手伝いで畑仕事よくしてたので!」
「そう、なのか」
「はい! 青虫って見た目可愛いですけど、厄介ですよね。大食らいの子だと葉っぱ全部食べちゃうし」
「……そうだな」
俺の作戦は見事に失敗した。
なんだこの子。
もしかして俺より農作業に詳しいんじゃねぇか。
それに虫怖がったりもしないって。
そのうえ愛想がよくて、親との同居もオッケーで、まだ未確認だけど料理上手って。
条件だけみれば、さんは結婚相手としてはめちゃくちゃ優良物件だ。
…いや、だからって結婚しようとか付き合おうとか思わねぇけど……。
「あんた……さんさぁ」
「はい。なんでしょう」