第15章 スモーキー・ブルース/烏養繋心
くるりとこちらを向いた彼女が持つ割り箸の先には青虫が逃げ出そうと必死に体をくねらせている。
なんともシュールなこの光景に、俺はため息をつきながら言葉を続けた。
「なんでそんなに俺に固執するんだ? さんなら結婚相手なんて引く手あまたなんじゃねぇのか」
今時、義理の親との同居がオッケーだとか結婚前に高らかと宣言する若い女なんて貴重だろう。
周りで結婚したやつらだって、親と同居してるやつなんてほとんどいない。
ましてや彼女くらいの年の若さなら、結婚したい男なんてザラにいそうだ。
見た目だって、そう悪くねぇんだし。
「引く手あまたなんて、そんなことないです。それに……」
「それに?」
「!! 繋心さん、危ない!」
「えっ」
急にさんが俺のすぐそばまで飛んできた。
かと思うと俺の横の土を踏みつけた。
「繋心さん、鎌か鍬あります?」
「え、あぁ、倉庫に置いてあるけど……」
「すみませんが、持ってきてもらえますか?」
「あ、あぁ、分かった」
先ほどまでと雰囲気がガラリと変わって真剣な様子のさんに気圧されて、なんでそんなものが必要なのか聞きもせず、倉庫へと走った。
足早に畑に戻って、鎌を渡すと、さんは「ごめんね」
と小さく呟いて、足元を突き刺した。
そこでようやく、彼女が何をしようとしていたのかが分かった。
彼女が突き刺したものはしばらくうねうねと動いていたが、そのうちピクリともしなくなった。
どうやら俺のすぐそばに、マムシがいたみたいだ。
土色をしたマムシの体は畑と同化していて、彼女はよく存在に気づいたものだと思う。
「噛まれなくて良かったです」
「…ありがとう」
俺にニコッと笑うさんが頼もしいやら、ちょっと怖いやらで、俺は彼女が言いかけた言葉を再度尋ねることを忘れてしまっていた。
「っくしゅん!」
気が緩んだのか、さんは盛大にくしゃみをかました。
そういえば今日の朝は少し冷える。
意地悪をした上に助けてもらった手前、ここで風邪でもひかれたら後味が悪い。
「これ着ときな」
「っ!! ありがとうございます!!」
俺の上着を受け取って、さんは嬉しそうにそれにくるまった。