第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
「あのな。そういうのちゃんと本人に言わないとダメだぞ。『すれ違い』ってのは大抵、そういう言葉足らずから起こるんだからよ。
俺も経験あるから、分かるけど。本音で話せなきゃ、それは本当に付き合ってるっていえないんじゃねぇか」
「でも、不安だから会いたいだなんて言ったら、さんを縛ることになります。そんなワガママなこと、俺言えません」
「お前、俺にはワガママ全開なくせによく言うよ。それにもう本人に聞こえちゃってるから」
「え?」
二口先輩が後方を指さした。
ゆっくりとその先を見ると、さっきまでステージにあったさんの姿がそこにある。
さんの目は、今はしっかりと俺を捉えていて、心なしか怒ったような顔をしていた。
「貫至くんのバカ! なんで来ちゃうのよ」
開口一番、さんがそう言ったので、俺はまた視線を地面に落とした。
ほら、やっぱり会いに来てほしくなかったんだ。
さっきの俺の言葉も、迷惑だったに違いない。
俺の独りよがりで、さんは来てほしくなかったのに押しかけて。
会いたくて仕方なかったけど、これでさんに嫌われてしまったら。
顔を下に向けているからか、重力で俺の目の奥から涙が地面に引っ張られそうだ。
コツコツと、さんの履くヒールの音が近づいて、俺の目の前で止まった。
下を向いた俺には、赤いヒールの先しか見えない。
「……バカ!!」
そう言ってさんは俺の胸に飛び込んできた。
一瞬何が起こったのか分からなくて、目をぱちぱちさせてさんを見ると。
目があったさんは顔を真っ赤にさせて、すぐに俺の体に顔をうずめてしまった。
「……会ったら寂しくなるから、我慢してたのに……!」
俺のセーターに埋もれたさんからくぐもった小さな声が聞こえた。
今のが聞き間違いじゃないのなら、さんも、俺と同じ気持ちだったってことだろうか。
「えっ、あの、さん……」
「もう! 私だって寂しかったよ! 会えない分不安だったよ! 私だって貫至くんのこと、大好きなんだから……!!」
「さん……」
くぐもった声は少し涙声になっていた。