第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
ああ、独りよがりだなんて思ってごめん。
ぎゅっとしがみついてくるさんの背にそっと腕を回して、優しく抱きしめた。
「…チョコレートも何も、私準備してない」
言ってくれたら用意したのに、とさんが悔しそうな顔で俺を見上げる。
チョコなんてなくても俺は構わないと答えると、だけどせっかくのバレンタインなのに、とまたさんは悔しそうな顔を見せた。
「俺はさんがいれば、それで十分っスから」
思っていることは、口にしなければ伝わらない。
だから最大限に気持ちをこめて、さんにそう囁いた。
次の瞬間にはさんが耳まで真っ赤になったのを見て、俺は嬉しくてたまらなかった。
「あ、でもひとつだけ欲しいものがあるっス」
「? なに?」
今からでも間に合う? なんて小首をかしげるさんに、十分間に合いますと俺は笑って答える。
「え、なんだろ……」
さんが俺を見上げたまま考え込み始めたので、俺はそのままゆっくりさんに顔を近づけた。
触れた唇は、きっとチョコレートよりもずっとずっと甘いもの。
チラチラと舞い始めた雪の中、俺とさんは互いのぬくもりを確かめるように口づけを交わした。
──fin──