第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
さんに会いたくて、ここまで来た。
だけど、どこか後悔している俺がいた。
同じ空間にいることが苦しかった。
さんの出番が終わるのも待たずに、俺は出口に向かっていた。
「…お、おい、黄金?」
「スンマセン、ちょっと気分が」
「大丈夫かよ」
黙って出て行こうとした俺に、二口先輩が心配そうに付き添ってくれた。
「人に酔ったのか? ちゃん出てきたってのに元気なかったもんな。……水飲むか? 吐きそうならトイレ行けよ」
「大丈夫っす。ありがとうございます。……スンマセン、途中で抜けて」
「いや、俺は別にいいけど。気分良くなったら戻るか? まだちゃんの出番終わってねぇかも……」
二口先輩の言葉に、俺は力なく首を横に振った。
俺の返答がよほど予想外だったのだろう。
二口先輩は驚いた顔をした。
「は? 何、そんなに気分悪いわけ? 風邪でもひいたか?」
その言葉に、俺はまた首を横に振った。
「……さん、来て欲しくなさそうだったんです」
「……今日の、ライブにか」
「はい。…でも俺、半年も会えてないし、いつ帰ってくるかも分からないってさんに言われて。無理やりにでもライブに行かなきゃダメだって思ったんです。
距離が離れてるから、そばにいられないし、電話越しで話すだけじゃ足りなかった。
遠距離になっても俺の気持ちは大きくなっていくのに、さんはそうでもないような気がして、不安で」
初めての彼女で、勝手が分からないことがいっぱいあった。
どんなことをしたら喜ぶのか、どんなことをしたら嫌われるのか、全部手探りの毎日で。
それなのにいきなり遠距離になって、俺は不安でたまらなかったんだ。
だけど、夢に向かって頑張るさんに『不安だ』って直接言えない。
そんなこと言ってしまったら、さんを縛ってしまうから。
言葉にして、ようやく自分の気持ちがハッキリしていった。
「それ、ちゃんと本人に話したのか?」
二口先輩の言葉に首を振るのは何度目だろうか。
俺が首を振ると、二口先輩は深いため息をついた。