第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
「黄金……覚えとけよ……」
二口先輩の低い声が怖くて、先輩の顔は見れなかった。
会場は小さなライブハウスだった。
中に入ると半分くらいまでお客さんで埋まっていて、俺達の後からもまだ人が入ってきていて、会場はほぼ満員になりそうだった。
「俺、こういうとこ初めてなんす」
「ちゃんのライブで行くことなかったのか?」
「路上ライブなら何度か行きましたけど、向こうじゃライブハウスでやることなかったんで。すぐ東京行っちゃったから、実際に生の歌聴いた回数もそんなに多くないんスよ」
「ふぅん」
二口先輩は入り口でもらったチラシを眺めながら、興味なさそうに返事をした。
チラシには何組かのアーティストの名前が載っていて、さんの出番は最後から2番目だと書かれている。
さんのプロフィールも載っていた。
それを一通り読み終えて、二口先輩がポツリと呟いた。
「……ちゃん、これから売れていくのかもな」
「絶対売れます!! そのうち紅白とか出ると思います!!」
この世の中にどれほど歌手を夢見ている人間がいるのかは知らないけれど、夢をかなえるのがそんなに簡単じゃないことは、俺でも分かる。
だけど、俺はいつでもさんの1番のファンでありたい。1番の応援者でいたい。
だからいくら二口先輩が俺の言葉に本心から同意してなさそうな顔を向けても、俺は声を大にして「売れる」と口にする。
「ちゃんのファンなんですか?! 俺もなんです!」
急に後ろから背中を叩かれ振り返ると、さんのファンだと名乗る男の人が興奮気味に俺を見上げていた。
さんのファン。
その言葉を聞いただけで、めちゃくちゃ嬉しくなった。
思わずその人の手を握って、興奮気味に話しかけてしまう。
「マジっすか!! あざっす!!」
「いいですよね、ちゃん!! 俺もいつか紅白出ると思いますよ!!」
さっきの話を聞いていたらしい。
興奮気味に話す男の人の横では、その人の彼女らしき人が半分呆れたような顔でこっちを見ていた。
ライブが始まるまで、俺はその男の人とさんの話で盛り上がった。