第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
「うっ……!! な、なんで肘鉄くらわすんスか?!」
涙目で訴える俺を、二口先輩は冷たい目で見てくる。
「おい、黄金。お前、アレどういう事だよ」
「え?」
脇腹をさすりながら、二口先輩が指さした方に目をやると、そこには小さな立て看板が置いてあった。
看板には『☆カップル限定☆バレンタインライブ ※入場時にカップルである事の証明が必要です』の文字が。
「カップルの証明、って……」
ペアでしか入れないライブだとは聞いていたけれど、まさかそんなことが必要だなんて思いもしなかった。
俺達の前の男女は、入場スタッフの目の前で熱いキスを始めている。
見ているこっちまで恥ずかしくなるようなその長いキスに、周囲からは冷やかしの声が飛ぶ。
「俺は嫌だぞ。お前とキスとか死んでも嫌だ」
二口先輩は今にも列から抜け出してしまいそうだった。
そりゃ俺だって先輩とキスとか考えられない。
だけど、ここまで来てライブに行けないなんて、それこそ考えられない。
他にカップルだと証明出来そうなことって、何があるんだ。
全然アイディアが浮かばないまま、俺達の番が回ってきてしまった。
スタッフの人は俺達を見て一瞬目を丸くしかけたけど、すぐにニッコリと笑顔になった。
「はい、ではお二方、カップルの証明お願いできますか?」
証明って言ったって。
どうしようかと固まってしまった俺は、横目で二口先輩を見た。
先輩はすごい渋い顔をして黙ったまま。
スタッフの人も動かない俺達に笑顔を向けてくれているものの『カップルの証明』をするまでは、会場に入れてくれる様子はない。
スンマセン、二口先輩。
これもさんのライブを聴く為……!!
口じゃなくて頬だったら、先輩も多分許してくれるはず!!
そう思って、俺は勇気を振り絞った。
「二口先輩!」
「あ゛?」
先輩に逃げられる前に素早く頬にキスしようと思った俺は、けっこうな勢いをつけていた。
だから直前で二口先輩がこっちを向いても軌道修正なんて出来なかった。
「ってぇ!!」
ゴチンと派手な音がして、俺と二口先輩の顔がぶつかった。
口に何か触れたような気がするようなしないような。
ジンジンする口を抑えながら、スタッフの人へ顔を向けると、ありがたいことにオッケーサインをもらえ、俺と先輩は無事会場に入ることが出来た。