第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
けれど、黄金川は諦めることなく、その日一日事あるごとに俺に頼み込んできた。
図体もデカいし、声もデカい黄金川は所かまわず俺に頭を下げる。
周囲の視線もお構いなし。
傍から見たら、まるで俺が後輩をいびってるように見えたと思う。だけどそんなこと、黄金川は気づきやしない。
自分の彼女に会うため、必死なんだ。
コイツはいつだって真っ直ぐで、一生懸命で。
黄金川の再三にわたる懇願に、俺の心はぐらぐらと揺れ始めた。
そして帰り際には土下座しそうな勢いで頭を下げられて、とうとう俺はそこで折れてしまった。
「マジで!! ありがとうございます!! この恩は一生忘れません!!」
「ああ、もう分かったから。マジで今回が最後だからな!」
「はい!!」
うん、この元気な返事、何度聞いたことか。
心のどこかで、どうせまたコイツはいつかまた“一生のお願い”を言ってくるに違いない、って思った。
だけどこうして頼られるのは、面倒くさいけれどほんのちょっとだけ嬉しかった。
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翌週の金曜日。
二口先輩と一緒に夜行バスに乗り込んで、東京へと向かった。
夜行バスが初めてだった俺はなんだか興奮してしまってよく眠れなかったけれど、アイマスクとマスクを着けた二口先輩は、到着までよく寝ていたようだった。
バスは早朝、新宿のバスターミナルに到着した。
それからは二口先輩の案内に従って、ライブの時間まで暇をつぶした。
二口先輩は行きたかったお店に行けて機嫌がよくなったのか、お昼ご飯をおごってくれた。
二口先輩は「こんなきっかけでもねぇと東京なんて来なかったしな」なんて言って、ちょっとだけ照れていた。
なんだかんだいって先輩は優しかった。
ライブの時間が近づき、会場に向かうと、会場の入り口までずらりと列が出来ていた。
「予想はしてたけど、カップルばっかだな」
「そっすね……」
俺と二口先輩の他は、ほとんど男女のペアだった。
たまに女の子同士のペアも見かけたけれど、男同士のペアは俺と二口先輩だけのようだった。
「確実に浮いてるな俺ら」
「スンマセン……」
若干の居心地の悪さを感じながらも、さんの歌声が聴けることを思い返して、自分を勇気づけた。
会場の入口が目前に迫った時、二口先輩の肘鉄が俺の脇腹にモロに入った。