第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
そう感じた俺の第六感は正しかったことが証明されてしまった。
「俺じゃなくても他にいっぱいいるだろ。作並とか吹上とかよぉ」
「みんな断られましたっ!!! 二口先輩が最後の砦っす!!」
そんな物語を左右するような重要人物みたいに言われても困る。
『鉄壁』だけに『砦』ってか、やかましいわ。
……なんて脳内で一人ノリツッコミをするくらいには、変な余裕があった。
「勝手に会いに行けばいーじゃねーか。ライブ会場んとこで張ってりゃいいじゃん。出待ち? みたいな」
「俺は歌も聴きたいんス!!!」
「お前の希望は知らねーよ!」
なんで俺が黄金の為に東京くんだりまでついていかなきゃなんねーんだ。
それも彼女に会うためだろ? しかもバレンタインの日に。
なんだ、お前当てつけか? と思わざるを得なかった。
ちょうどこの間、俺は彼女と別れたばっかりだったから。
「お願いします!! 旅費は全額出すんで!!」
「はぁ? マジで言ってんの?」
「マジっす!! お年玉と小遣い前借りでいけるっス!!」
正直ちょびっとだけ心が揺れた。
こないだ雑誌で見た、古着の店が東京にある。
こっちじゃ売ってないような服もあったから、本音をいうと東京には行きたい。
だけどコイツと2人きりで東京まで旅行っつーのは。
「これが最後の一生のお願いっス! 二口先輩!!」
「っまえ、ホントにいくつあんだよ“一生のお願い”
その彼女と付き合う前もそんなこと言ってたじゃねーかっ」
「マジで!! 今回が最後なんでっ!!」
長身の黄金川が必死に頭を下げて、俺に頼み込む。
そうだ、コイツはいつもそうやって俺の小さな親切心にすがろうとすんだ。
黄金が今の彼女と付き合えてるのは、俺のおかげでもある。
俺の助言のおかげで、コンビニ店員だった彼女と黄金は顔見知りになった。
その後だって、顔見知りからその先へ進めるように、時折相談にのってやったし助言もしてやった。
……おい、俺ってめちゃくちゃ優しい先輩じゃね?
「でもな、もうお前の一生のお願いは聞いてやったからな」
「そんな! 頼んます、二口先輩!!」
大きな図体した男が、今にも泣きそうな顔で必死に頼み込んでくる姿はなんともシュールだ。
東京行きに心はほんの少し揺れながらも、俺は首を縦に振らなかった。