第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
ペア。
そっか、バレンタインだからカップル対象なのか。
でもそれだったら、誰か一緒に連れて行けば入れるってことだよな?
頼めそうな女子……マネの滑津さんとか…?
『あ、だからって誰か女の子と一緒に来たら、私、貫至くんと一生口きかないからねっ』
俺の考えなんかさんにはお見通しだったみたいで。
提案する前に、俺の案は却下するしかなかった。
『それにライブ夜にやるんだ。だからもし来てくれても泊まりになっちゃうと思うの。東京で一泊とかご両親許してくれないでしょ』
「それは相談してみないと分からないっすけど」
『……ちゃんと、帰るから。その時は連絡するし、今回は、ね』
「でも……」
聞き分けの無い子供みたいなことを言ってる自覚はある。
だけどもう半年も会えていないこの状況で、いつ会えるか分からないその日を待つなんて、俺にとっては拷問に等しい。
『私も、会いたいよ貫至くんに。だけど、今回は我慢しよ? ……あ、ていうか貫至くん時間大丈夫? 今日は朝練は?』
促されて時計に目をやると、いつも家を出ている時間まであと10分だった。
「え、あ、時間ヤバい!」
『早く準備して! 部活頑張ってね、じゃあまたね』
「さんもお仕事頑張ってくださいっス!」
『ありがとう』
電話はすぐに切られてしまった。
そうしないと俺がいつまでも電話を切らないから、あえてさんはあっさりと電話を切ったのだと、頭では分かっているのに、プッツリと切れた電話がまるでさんが俺を拒否したがってるみたいで、胸の中にモヤっとしたものがわきあがる。
距離が離れた分だけ、心も離れてしまうものなんだろうか。
生活リズムも、環境も、生き方がまるで違う俺とさんは、ちゃんと通じ合えているんだろうか。
払っても払っても頭の中にわきあがってくる嫌な思いに、思いっきり首を振った。
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‐数時間後‐
「イヤだね。なんで俺がお前と2人きりでわざわざ東京まで行かなきゃなんねーんだよ」
「もう二口先輩しか頼める人がいないんス!」
朝練の前から嫌な予感はしていた。
黄金がやけに真剣な顔で、俺をずっと見つめてくるから、第六感が働きまくりだった。
これは何かある。
また『一生のお願い』とやらがくる。