第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
「スンマセン、俺、時間考えずに」
『ううん、今日は起きなきゃいけなかったから』
寝起きの声から次第に明るくなっていく声にホッとする。
だけど、声を聞くと会いたい気持ちが大きくなって破裂しそうなくらい膨らんでしまった。
「…さん、こっち帰ってきたりしないんすか。年末も、お正月も帰ってこなかったじゃないっすか」
『そうだね……私も折を見て帰りたいんだけどさ。今は、ライブの準備もあって忙しくて。帰れるのは、まだ当分先かなぁ』
「そうっすか……えっ、てかライブするんすか?! いつっすか?!」
『今度の土曜日だよ。…ちょうどバレンタインの日だね』
「なんで教えてくれないんスか?! 俺絶対聴きに行くっす!」
さんも意地悪だ。
俺がさんの歌大好きなのを知っているくせに、俺が会いたいって知ってるくせに、大事なライブのこと教えてくれないなんて。
『うーん……でも、ライブこっちでやるからなぁ。それに土曜日も部活、あるんじゃない?』
鼻息荒く『聴きに行く宣言』をする俺に、さんの困ったような声が電話口から流れてきた。
電話越しに眉尻を下げた困った顔をしているさんの顔が自然と浮かぶ。
東京に行くには、交通費がそれなりにかかる。
多分そういう事をさんは心配してくれているって分かってはいるけど、どこか俺に会いたくないんじゃないかって勝手なことが頭に浮かんでしまう。
遠距離、だから。
今自宅じゃないとこにいるんじゃないかとか、もしかしたら誰かと一緒なんじゃないかとか、疑えばきりがなくて、悪い妄想ばっかりしてしまう。
「来週の土日は部活休みっス!!」
『そうなの……?』
「はい!!」
嘘じゃない。
来週は本当に休みだ。
資格試験があって学校が立ち入り禁止になるから、本当に休みだ。
だけどさんは俺が本当のことを言っているのかどうか判断しかねているようだった。
俺だったら嘘をついてまで会いにこようとすると思っているのかもしれない。
……そんなことしないと言い切れないところがツライ。
『そっか……それはすごい偶然だね。…でも、今度のライブ、ペアの人達限定なんだよね』
「ペア、っすか」
『そう。バレンタインライブだから、さ。だから貫至くんだけじゃ会場に入れないの』