第13章 恋の始まりはすれ違いから/茂庭要
ふと見上げた電光掲示板に赤字が流れていく。
『電気系統のトラブルの為、30分遅れで運転しております』
……ついてない。
家に茂庭くんはいないわ、電車は遅れるわ。
ちょっぴり挫けそうになりながらも、30分待つことにした。
告白のシミュレーションをしながら。
なんて言うのがいいんだろう。
率直に、『好きです』かな?
それともどういう所が好きか語ってから、『付き合ってください』とか?
チョコを差し出して、『受け取ってください』ってのもバレンタインならではかなぁ。
さすがに茂庭くん、気が付いてくれるよね?
今日はバレンタインだもの。
そんなことを悶々と考えていたら、30分も意外とあっという間に過ぎてしまった。
30分遅れてやって来た電車に乗り込んで、ガタゴト揺られながら、まだ私は告白の言葉を1人考え込んでいた。
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学校の正門に着いてから、はたと気付いた。
しまった。
私服で来てしまった。
まだ一応在校生だから、私服で入ったって問題はないと思うけれど。
ジャージや制服姿の1、2年生の中で女子の私服は目立ってしまう。
目立ちたくはないんだ。
ただでさえうちの学校は女子が少ないから、嫌でも目立つのに。
こっそり茂庭くんに渡したいだけなのに。
他の人にあれこれ詮索されるのも恥ずかしいし。
だけど、もうここまで来たらしょうがない。
意を決して校門の中へ一歩踏み出す。
校内に入ってからは、不審者のようにこそこそと体育館へと向かった。
途中訝し気にこっちを見ている下級生が数名いたけれど、放っておいてとにかく体育館を目指した。
「よかった、まだ練習してるみたい……」
体育館からはボールを打つ音が聞こえてくる。
「おら、黄金まだへばるにゃ早ぇーぞ!!」
あ、この声。
たぶん鎌先くんの声だ。
鎌先くんがいるんなら、きっと茂庭くんも一緒にいるはず。
……だけど、どうしよう。
練習いつ終わるんだろう。
今体育館の中に入るわけにはいかないし。
練習の邪魔はしたくないし、他の人に見られたくもないし。
寒いけどここで待っておくしかないかな……?
すれ違いになっても嫌だし……。
仕方なく、茂庭くんが体育館から出てくるまで、私は少し離れた場所で待つことにした。