第13章 恋の始まりはすれ違いから/茂庭要
吐く息は白く、鼻頭はほんのり赤い。
深く吸った空気は冷たく、心臓がキュッと苦しくなった。
手袋をしていてもかじかむ手を暖めるようにこすり合わせ、大きく息を吐いて心を落ち着かせた。
一世一代の勇気を振り絞って、玄関のチャイムを押す。
ピンポーン、とよく聞くチャイムの音が鳴って少しすると、インターホンのモニターがパッと明るくなった。
「あっ、あの、おはようございます! わ、私、茂庭くんと同じクラスの、と申します」
モニターに出てきたのが、茂庭くんのお母さんだったから、ちゃんと挨拶しなくちゃって緊張して、噛み噛みの挨拶になってしまった。
恥ずかしい、穴があったら入りたい。
だけどこんなことでへこたれていては、今日の目的は達成できない。
私は心の中で一人また決意を新たにした。
『おはようございます。さん、せっかく来てくれて悪いんだけど、要はねぇ、朝から学校に行ってるのよ』
茂庭くんのお母さんの言葉は、新たにした私の決意を軽く打ち砕いた。
朝から学校?
もう自由登校になってて、そうそう学校に行く用事もないはずなのに。
私が考えていることが分かったのか、お母さんは言葉を続けた。
『あの子ね、もう本当に最後だからって、バレー部に顔出しに行ったみたい』
「バレー部……ですか。分かりました、ありがとうございます」
『あなたが来たこと、要に伝えましょうか?』
「あっ、いいえ、大丈夫です! お気遣いありがとうございます!」
モニター越しに茂庭くんのお母さんに何度もお辞儀をして、私は学校を目指すことにした。
お母さんの気持ちは嬉しかったけど、茂庭くんに気づかれてはいけないのだ。
──だって、今日はバレンタイン。
朝から家に来た、だなんて茂庭くんに知られたら。
何しに来たのか、きっと分かってしまうから。
高校最後のバレンタイン。
一世一代の勇気を出して、私は茂庭くんに想いを告げるつもりでいる。
カバンの中のチョコの存在を確認して、私は学校に行くため、最寄りの駅へと向かった。
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駅のホームに降りると、人だかりが出来ていた。
「マジかよ、急いでんのに」
ざわざわとしている人だかりから、そんな呟きが聞こえて、もしやと嫌な予感が頭をよぎった。