第13章 恋の始まりはすれ違いから/茂庭要
「……寒い……」
20分くらい待っただろうか。
じっと外で待つには、今日の気温は低すぎた。
頼みの綱のホッカイロも、少しずつ元気をなくしてしまっていて、シャカシャカと鉄粉の擦れる音だけがむなしく聞こえてくる。
体育館からは元気のいい掛け声が聞こえていて、練習が終わる気配はない。
休憩もまだなのか、外に出てくる人もいない。
……寒空の中いるから、トイレに行きたくなってきた。
「ダッシュで戻れば大丈夫だよね」
自分に言い聞かせるように呟いて、トイレまで走った。
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「お、どうした? なんか用事か?」
トイレから出ると、大きな荷物を抱えた副担とばったり出会った。
「あー…まぁ……」
なんとなく気恥しくて、曖昧に答えると、副担は興味なさそうに「ふぅん」とだけ答えた。
「なんでもいいや。暇ならちょっと手伝え」
「えっ、いや、私」
「最後に孝行してから卒業しろ」
「えーっ」
副担は荷物を半分こちらに寄越すと、こっちこっちとだけ言ってスタスタと歩き出してしまった。
ちょっと待って、私は今から大事な用事が……
一世一代の、人生をかけた大事な……
呼び止めようにも副担の足は速く、すでに階段を登ろうとしている。
仕方ない。
さっと運んで戻ってくれば間に合うはず。
チラと見やった体育館からは、いまだ人が出てくる気配はなさそうだ。
荷物を抱えながら、副担の後を小走りで追った。
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「何がちょっと手伝えよ……」
副担は荷物を運んだだけでは満足してくれなかったらしく、荷物の整理まで私に頼んでどこかへ行ってしまった。
幸いなことに、今いる資料室からは体育館の入り口が見える。
荷物を指定の場所に整理しながら、私は時折窓の外へ目をやった。
茂庭くんが出てきたら、ここを飛び出して彼を捕まえなければ。
出来たら一人の時を見計らって渡したいけど、あんまり贅沢なこと言ってられない。
そんなことを考えながら、荷物の整理をほぼ終えかけた時、体育館の扉が開くのが見えた。
扉から、鎌先くんと笹谷くんが出てきた。
「ヤバい、早くしなきゃ!」
手に持っていた最後の一つを棚に放り込んで、資料室から飛び出した。
足早に階段を駆け下りて、体育館に通じる通路に飛び出すと、そこにいた人にぶつかってしまった。