第12章 星を見る少年/岩泉一
「すげぇ……」
それきり、はじめ君は黙ってしまった。
私も何も言えなかった。
満天の星の合間を、太く長い光の線が幾重も走って行く。
光の粒がすぅっと幾筋も流れていくその様は、まるで雨が降り注いでいるようだった。
ただでだえ近い空が、ひゅっと近づいて大きく光る流れ星のせいで、さらに近く思える。
自分達の上に星が落っこちてくるんじゃないかと思うほどだった。
「…星の、雨みてぇだ」
「ほんとだね。今日のは“流星群”じゃなくて“流星雨”かな」
「りゅうせいう?」
聞き慣れない言葉だったのだろう、はじめ君がたどたどしく聞き返す。
「流星群より、多く流れ星が見れるとそう言うの。“流れる星の雨”って書いて、“流星雨”……でも、今日のはもっとすごいみたい、見て」
指差した先には、やむことなく降り続ける星の雨。
天変地異の前触れだと言われてもおかしくなさそうなくらい、ひっきりなしに見える流れ星に、感激の溜息をつく。
「流星嵐、の方が正解かも」
「嵐、っすか。確かにこれだけの数の流れ星、“雨”じゃ収まりそうにないっすね」
「流星嵐が見られるのってね、100年に1度あるかないかのことなんだよ」
「マジっすか! …俺ら、スッゲェ貴重な体験してるんすね」
終わる事なんてなさそうに思えるくらい、星の雨は降り続いた。
ツアー終了の時刻が迫ってもまだ、嵐はおさまりそうになかった。
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まだ流れ星はいくつも観測出来るものの、時間は無情にもツアー終了を告げていた。
バスに乗る前にお手洗いを済ませようと、列に並ぶ。
はじめ君とはロープウェー乗り場前で落ち合うことにして、お互い用を済ませた。
乗り場前に行ったものの、はじめ君の姿は見当たらなかった。
男性トイレの数が少なかったから、もしかしたらまだ列に並んでいるのかもしれない。
数の多い女性の方がスムーズに列が流れていたことを思い出し、乗り場前で大人しくはじめ君を待つことにした。
周囲はカップルだらけで、あちこちでひっつき合っている。
その中でぽつんと1人立っているのは少し居心地が悪い。
誰も私の事など注目していないけれど、気まずさを紛らわすように用もないのにスマホをいじった。
煌々とした明かりが顔を照らす。
周囲の喧噪が耳にぼんやりと届く。