第12章 星を見る少年/岩泉一
ふはっ、と笑う声が聞こえてはじめ君に目をやる。
「えらい荷物背負ってると思ったら。準備いいっすね、さん」
「でしょ? 伊達に星好き名乗ってないからね。座り心地抜群なの持ってきたよ」
調子に乗ってドヤ顔すると、またはじめ君が笑った。
屈託のないその笑顔に、胸がぎゅっと絞られる感じがした。
幾度か瞬きして、その感覚が起きた理由を自分なりに探る。
こんな感覚に陥るのは初めての経験じゃ無い。
だけど、まさか。
認めてしまっていいものか、どうか。
ゴーサインなんて簡単に出せない。
私は、彼より年上で。彼は元患者さんのお孫さんで。
迷う私の気持ちを知らないはじめ君は、レジャーシートを広げるのを手伝おうと、こちらに手を伸ばす。
指先がほんの少し触れる。
僅かに触れた指先から、かぁっと熱がともり全身に駆け巡っていった。
あぁ、これはもう手遅れだ。
頭でいいとかダメとか考えるより先に、心はもうすでに、はじめ君の方を向いてしまっている。
2人座るには充分な広さのレジャーシート。
だけど腰を下ろすと、意外にもはじめ君との距離が近い気がして、ドクドクと脈打つ音が耳に響く。
星空を見上げるフリして、横目ではじめ君を盗み見る。
流れ星を見逃しはしまいと真剣な目で夜空を見上げる横顔が格好良かった。
気付かれないうちに、目をそらそうと思うのに、そらせない。
そのうちに、視線に気付いたのか、はじめ君と目が合ってしまった。
「さん? どうかしました?」
「ううん、何でも無い」
言えない。
言えるわけ無い。
たとえ私の心が彼の方に向いていたとしても。
彼の心がどこを向いてるかなんて、分かりはしないんだから。
一方通行の想いは時に、現状の関係を悪化させてしまうこともある。
これまでの人生の中で経験した、苦い思い出がそう警告を告げる。
はじめ君から、今度こそ星空へと目を向ける。
1つ、また1つと、煌めく光の線が流れていく。
「おっ、今同時に3個くらい流れた!」
隣ではじめ君がびっくりした声を上げた。
流れ星なんて普段滅多に見ることないから、はしゃぐ気持ちよく分かる。
「まだだよ、はじめ君。もっとたくさん見れるはず」
「マジっすか。説明は聞いたけど、一体どんだけ……」
あたりから歓声があがった。
声につられて2人、夜空に視線を戻す。