第12章 星を見る少年/岩泉一
「ホントだ。あんなに滑れたら気持ちいいだろうね」
「スノボやりてぇな。今まではバレーあったからあんまやんなかったけど。さんはやります? スキーとかスノボとか」
はじめ君はスポーツ全般得意そうだもんね。
スノーボードで颯爽とゲレンデを滑るはじめ君の姿は容易に頭に浮かんでくる。
「あんまりやったことないなぁ。学校で参加したスキー教室くらいかな」
「そうなんすか。面白いっすよ、スキーもスノボも」
ーーはじめ君の滑ってる姿、見てみたいな。
ふいに口にしそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。
はじめ君の気持ちが不確かなまま、不用意な発言はすべきでは無いと、内なる声が訴えている。
独りよがりの想いは、これからの時間を苦痛に変えてしまうかもしれない。
折角の楽しい時間が、私の不用意な発言で気まずい雰囲気で過ごすことになったら、はじめ君に申し訳ない。
だから私は「そうなんだぁ」と微笑むしかなかった。
はじめ君の視線はゲレンデに向けられたままだった。
こっちを見ていなくて良かった。
言葉を飲み込んだこと、気取られずに済んだ。
ロープウェーの動きが段々とゆっくりになる。
頂上についた。
乗客の視線が一斉にドアの外の係員に向けられた。
革靴とヒールのカップルを除いて。
******
「スッゲェ……」
ロープウェーを降りて少し歩いただけで、すぐに開けた場所に出た。
遮るもののない一面の星空が目に飛び込んできて、隣を歩くはじめ君の口から感嘆の声が漏れた。
「流れ星無くても、これだけでも充分綺麗だね」
「ホントそうっすね」
薄らと白い息が流れていく。
ここが山頂なのに加えて、深まる夜にあわせて気温も下がっていっているようだった。
「あっ、流れ星」
どこからか聞こえてきた声に、私もはじめ君も流れ星を目で追った。
だけどその時にはもう消えてしまっていたのか、一体どこを流れていったのか分からなかった。
「これから、たくさん見れるんすよね」
だったら焦って探すことねぇっすよね、と言ってはじめ君が笑った。
そうだね、と返して私も笑う。
ほんのり赤くなった頬は、寒さのせいなのか。
判別なんて出来ないまま、添乗員さんの指示でめいめい山頂に設けられた広場の好きな場所に腰を下ろす。
リュックにしまい込んでいた厚みのあるレジャーシートを広げる。