第12章 星を見る少年/岩泉一
バスには添乗員さんも乗っていて、今日観に行く『獅子座流星群』にまつわる話や、ちょっとしたゲームをやってくれた。
おかげで1時間ちょっとの道のりはあっという間に過ぎていった。
バスを降りて、添乗員さんの旗を目印に他の参加者の人達とぞろぞろと山頂を目指す。
山頂まではロープウェーで上がれるようになっていて、それを見越してか、目の前のカップルは男性は革靴、女性はヒールを履いていた。
歩きやすさ重視でスニーカーを履いてきた自分と前の彼女を見比べて、私もオシャレしてくれば良かったかな、なんて思った。
自意識過剰だったら恥ずかしいし、はじめ君には聞けないでいるのだけど。
こういうイベントに誘ってくれたってことは、もしかして……なんて思いがよぎらなかったわけじゃない。
だけど、はじめ君からしたら、私はただ初枝さんの入院先の看護師にしかすぎないと思うんだ。
私からするとはじめ君は、命の恩人だったり、辛いときに守ってくれたり励ましてくれた恩人だけど。
でも、もしも、万が一はじめ君が『デート』として誘ってくれたのなら。
もう少しそれに相応しいような、可愛げのある服装でも良かったかもしれない。
今の私は、防寒バッチリの、色気のない格好だ。
似たように着込んだ女性も他にいるけれど、大半のカップルの片割れは、可愛らしく着飾っていた。
ロープウェーに乗り込むと、周囲のカップルの密着度が更に上がる。
もしかしたらバスの中でもそうだったのかもしれないけれど、車内では他の人達の様子はよく見えなかったから分からない。
先ほどの革靴とヒールのカップルなんて今にもキスしそうなほど、互いに身を寄せ合って顔を近づけ囁き合っている。
目の前にいるからどうしても視界に入る。
それははじめ君も同じだったようで、私と同じように目のやり場に困っていた。
そのうちにはじめ君の泳いだ視線は私とぶつかった。
するとどうだろう。
はじめ君の顔が一気に真っ赤になった。
その反応につられたのか、顔に熱が集まるのを感じる。
あれ、何で? 何で私も顔赤らめてるの?
緊張が伝染するみたいに、赤面も伝染するのかな。
「…ここ、ナイターもやってんすね」
赤い顔のまま、はじめ君の視線は眼下に広がる真っ白なゲレンデに向けられた。
彼に倣って下に目をやると、白い雪の上に線を残していくスキーヤー達の姿が見受けられた。