第12章 星を見る少年/岩泉一
「11月17日の土曜日、っと」
さんはスマホを取り出して、スケジュールか何かに予定を書き込む。
…スマホ。
そうだ、連絡先。今なら自然に聞けるタイミングじゃねぇか。
「あ、そうだ。連絡先交換しない? 何かあった時、連絡取れないと困るし」
「そうっすね」
脳内の及川が「岩ちゃんだっさ! 先に言われちゃってるし!」と小馬鹿にしてくる。
脳内及川に鉄拳と蹴りを入れて、どこかへ吹き飛ばす。
言われなくても分かってる。
「来週の土曜日か。楽しみだね」
「…そっすね」
今からこんなんで大丈夫なんだろうか。
緊張なのか恥ずかしさなのか分かんねぇけど、俺今日は「そっすね」しか言えてねぇ。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、さんは嬉しそうに笑みを浮かべているだけだった。
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流星群を見に行こうとはじめ君と約束をした、11月17日。
指折り数えて待っていたその日は、運良く天気に恵まれ絶好の天体観測日よりになった。
待ち合わせ時間の15分前に着いたのに、そこにはすでにはじめ君の姿があった。
くすんだ緑のカーキ色したダウンジャケットから、灰色のパーカーがのぞいている。
黒いネックウォーマーに顔を埋めて、遠くを眺めているはじめ君の元に駆け寄ると、隠れていた顔がにょきっと現れた。
「ごめん、遅かったかな?!」
白い息が私とはじめ君の間を流れていく。
焦る私にほんのり笑みを浮かべて、はじめ君はかぶりを振る。
「いや全然。俺が早く来すぎただけで」
「そっか。でも待たせちゃってごめんね。寒かったでしょ」
「大丈夫っす。…バス来るまでまだ時間ありますね。そこのコンビニでも入りませんか」
はじめ君がスマホを握った手でコンビニを指し示す。
頷きながら、ちらりと見えた見覚えのあるスマホカバーに、頬が緩んだ。
私があげたカバー、使ってくれてるんだ。
欲しがってたやつだから使うのも当たり前のことかもしれないけれど。
実際に使ってくれているのを見ると、嬉しさがこみ上げてくる。
コンビニで少し時間を潰して、やって来たツアーのバスに乗り込む。
バスに乗る順番待ちをしている間、あたりを見回してみれば、やっぱりカップルで参加している人達ばかりだった。
中には同性の2人組やグループもいたけれど、ごく少数だった。