第2章 栗より甘い、/青根高伸
―後日談―
朝、教室で青根とに紙袋を手渡された。
ずっしりと重たいそれを覗き込むと、赤いネットにこれでもかと詰め込まれた栗、栗、栗……。
「……行ったのか、栗拾い……」
俺の言葉に、二人はこくりと頷いた。
高校生のデートで栗拾いは無いと思う俺だったが、この二人はめいっぱい楽しんできたみたいだ。
それはこの紙袋の中身を見ただけでも、よく分かる。
「行ったところが羊の放牧もしててね、高伸くんにめちゃくちゃ寄ってきてさ!囲まれて困った顔の高伸くんがすっごく可愛くてねー」
「おーおー、それはよかったな」
なーにが悲しくて朝から惚気話を聞かされなきゃならねーんだ、なんて俺の気持ちはガン無視で、は笑顔で話を続けている。
「…で、その時の写メがこちら!」
「へー……って、何これウケる!俺にも送って」
半分どうでもいいと思いながら見た写メが、思いのほか面白かった。
確かに少し困った顔をした(それでも仏頂面に見える)青根が、ぐるりと白や黒の羊に取り囲まれている画像はめちゃくちゃシュールだった。
動物には好かれるタイプなのか、青根。意外な発見だ。
そしてさりげなくピースをしている青根に思わず噴き出してしまう。
バレー部で撮った集合写真でも、こんな青根は見たことがない。
彼女にだけ見せる姿なんだろう。
ちらりと見やった青根はどこか恥ずかしそうだ。
「……も、可愛かった」
ぽつり、と突然青根がそんな言葉を口にしたものだから、俺は驚いてしまった。
と二人きりの時ならいざ知らず、俺もいるところで青根がそんなことを言うなんて、今までなら絶対に考えられないことだ。
それに、今、青根なんて言った?
『』って言わなかったか?
思い返せば、も青根のことを『高伸』と呼んでいたような。
この間の一件から、二人の仲がだいぶ進展したらしい。
朝から惚気に当てられてしまったが、青根をいじるネタが増えたことについニヤニヤしてしまう。