第12章 星を見る少年/岩泉一
冷たく固いプラスチックの椅子に座らせて、自分も隣に腰掛けた。
暖かみなんてひとつもねぇ椅子に若干の居心地の悪さを感じながら、さんが落ち着くまで背中をさすり続けた。
止まらない涙が次々と頬をつたうのを見てられなくて、ポケットからハンカチを取り出して渡す。
ポケットから顔を出したのは、偶然あの日と同じ青いハンカチだった。
差し出した青いハンカチを受け取って、さんは涙を拭う。
じわじわと涙を吸い取ったハンカチの青が、濃い紺色に変わるのにそう時間はかからなかった。
「……ごめんね……ありがとう。また借りちゃったね、ハンカチ」
「そんなの、いつでも貸しますよ」
「ふふ、カッコイイなぁそのセリフ」
目の端を赤くさせて、わざとらしい明るい声を出すさんに、また胸が痛んだ。
無理して笑ってる姿なんか見ても、嬉しくねぇ。
むしろ逆に痛々しくて、辛くなる。
「無理、すんな。辛い時は、辛いって言っていいんすよ。下向いたって、いいんすよ。上向くのなんて、いつだって出来るんすから」
親父さんの言葉を否定するつもりはねぇけど。
ずっと上を見続けるのは、しんどいことだと思うから。
下を向いた後で、また見上げればいい。
「…はじめ君、ありがとう。君には、いつも助けられてばかりだね。初めて会った時も、今も。それに…この間の談話室の時も。…あの時はごめんね、はじめ君はかばってくれたのにあんな態度とって。はじめ君の気持ち、嬉しかったよ」
「謝んねぇといけねぇのは俺の方です。勝手にしゃしゃり出て、余計こじらせたみてぇになっちまって……あの後、大丈夫でしたか」
「うん。ゆっくり話を聞いたら、落ち着いて下さったから」
「そうっすか。…看護師って、大変っすね。あんな風に言われても、言い返したり出来ねぇし」
思い出すだけでムカムカしてくる。
だけどさんは腹を立ててる風ではない。
人間が出来てるのか、俺より年上だからなのか。
「…あの患者さんもね、悲しくて寂しかったんだと思うの。…私に怒ってた、笹川さん。その笹川さんと仲が良い患者さんだったの、この間亡くなった患者さん。本当に突然のことだったから、笹川さんも気持ちの整理がつかなくて、私に当たるしか無かったんじゃないかな」
この人は俺が思うより強い人だ。
俺なんかよりずっと強い人だ。