第12章 星を見る少年/岩泉一
人に罵られてもなお、その人の心を案じてあげられるような、強い人だ。
「そうやって考えられるの、すげぇっすね。俺だったらぜってぇムカついてばっかだ」
「…半分は、自分にそう言い聞かせてるとこあるよ。そう思わないとやってらんないとこもあるから。…流石にね、『死神』とまで言われちゃうとね」
さんが来てから、2人亡くなったとあのばあさんは言っていた。
俺のばあちゃんが入院してる病棟は重篤な患者はいねぇから、確かにこう立て続けに患者が亡くなるってのは稀な事なのかもしれねぇ。
だから余計にあの笹川ってばあさんは酷い言葉をぶつけてしまっていたのだろうか。
理解出来なくもねぇけど、共感は出来ねぇ。
それでもその気持ちを否定するでもなく受け入れてしまうさんの優しさに、俺はまたこの人に惹かれていった。
笑顔の裏に隠した悲しみや辛さ、俺に見せてくれたこの人を、守りたい。
「あんたは、優しくて強い人だ。自分に言い聞かす為でもなんでも、根っこに優しさが無きゃ、そんな発想出来ねぇっすよ」
「…ありがとう、はじめ君。そう言われると、自分がなんだかすごい人みたいに思えちゃう」
「実際すげぇよ、あんたは」
辛くても、空を見上げて。
理不尽に罵られても、受け止めて。
頑張ることを辞めないさんの姿勢に、心から尊敬の念をこめる。
俺の言葉にはにかんで笑うさんを、ずっとそばで見ていたいと、この時から強く思うようになった。
******
それからしばらく経った、ある日の午後。
俺はファーストフードの店内で不機嫌な顔をして、残り少なくなった飲み物を一気に吸い込んでいた。
ズゾゾ、と息切れのような音がすると、斜向かいでポテトを食っている及川が不快そうな顔をして俺を見る。
「ハッキリ言って、バカだね。岩ちゃん」
いつもなら、そんなことを言われたら、拳骨のひとつでも見舞うんだが、今はぐうの音も出なかった。
ささやかな反抗の意志を見せようと、また音を立ててストローから息を吸う。
及川の眉間の皺が増えた。子供染みた嫌がらせに、呆れたのか溜息が漏れた。
「何でそこまでいったのに、連絡先聞いてないわけ?」