第12章 星を見る少年/岩泉一
「大体貴方なんなの? なんでこの女をかばうのよ。いやぁね、ここの看護師は見舞いに来る男を誰でも誑かすのかしら?」
「ハァ? ふざけんな」
好き勝手言いやがって。
さんはそんな人じゃねぇ。
頭に血が上って、ばあさんに詰め寄ろうとした俺を、さんがぐっと押しとどめた。
いつにない真剣な眼差しで、俺に訴えかけている。
これ以上、踏み込まないで。
言外にさんはハッキリとそう言っていた。
「……すんません」
「笹川さん、ちょっとあっちでお話ししましょうか」
ヒートアップするばかりのばあさんをさんはなだめすかし、やっと来た他の看護師と共に、ばあさんを談話室から別の場所へ移そうとする。
まだ何かグチグチとこっちを見て文句を言っていたが、応援に来た看護師になだめられて渋々別室へと消えていった。
ばあさんの怒鳴り声が無くなった談話室はいつも以上にしんと静まりかえっている。
何事かと野次馬に来ていた他の患者や見舞い客も、静かになったことで興味が失せたのか場を離れていった。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、ばあちゃんの病室へと向かった。
******
さんが『死神』と呼ばれた場面を目撃してから数日後の夜。
駅のホームでぼんやりと夜空を見上げるさんの姿があった。
その様子は初めて会ったあの日のさんの時のものに似ていて、俺は思わずさんの腕を掴んでいた。
「はじめ君か。ビックリした」
「すんません……大丈夫、ッスかさん」
さんの目は赤くは無かった。
だけどどこか寂しそうな色をしていて、掴んだ腕にギュッと力を込めた。
消えていなくなりませんようにとの、思いを込めて。
「え、私またフラフラしてた?」
返ってきたのは、拍子抜けするほどあっけらかんとした声音。
俺が思ってるよりさんに深刻そうな影は見えない。
「あ、いや……。ぼんやりしてたから、落ちたら危ねぇなって…」
「ごめん、心配かけて。今日の星空、綺麗だったから。つい見とれちゃって」
「星……ホント好きなんすね」
言うと、さんは少し恥ずかしそうに微笑んだ。