第12章 星を見る少年/岩泉一
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俺がさんへの恋心を自覚してからしばらく経った、ある月曜日。
学校帰りに、ばあちゃんの見舞いに行った。
談話室のところでさんの姿を見かけて声をかけようとした。
けど、他の患者さんと話してるみてぇだったから、やめて後で挨拶しようとばあちゃんの病室に向かった。
「ー…っ、絶対にあなたのせいよ!」
背後から聞こえてきた大きな声に、驚いて振り向くと。
白髪のばあさんがさんに掴みかからんばかりの勢いで食ってかかっていた。
「あなたがここに来てから、もうこれで2人目よ?! あんなに元気だった人が急に亡くなるなんて絶対おかしいわ!」
凄い剣幕で捲し立てるばあさんに、さんは何も言わず困った顔をするばかりだ。
いくらいわれのない事で責め立てられても、看護師が患者に言い返したり出来ねぇんだろう。
「あなた何か医療ミスでもしたんじゃないの?!」
「まさか、そんな」
さすがに『医療ミス』の言葉にはさんも動揺を隠せないみたいだった。
「じゃあ何、死神でも憑いてるっていうの!」
看護師に向かって『死神』なんて言葉を吐く人間を初めて見た。
言われたさんは悲しそうな顔で佇んでいるだけだ。
言われっぱなしのままのさんが不憫で、思わず踵を返してさんとばあさんの間に割って入った。
「あんた、いい加減にしろよ」
「何、貴方。横から口を挟まないでくれる?!」
「大声出すなよ、ここ病院だぞ」
「大声出させるこの人が悪いのよ! いつもヘラヘラした顔して。見てるだけで腹が立つわ」
もう何に怒っているのか分からなくなってしまったのか、ばあさんはさんの容姿や立ち居振る舞いにまで文句を言い始めた。
母ちゃんもそうだけど、怒り出した女の人ってのはなんでこう1つの事から怒りが飛び火してくんだ。
「あんたはそうやってああだこうだ好き勝手言えるけどよ。この人は言い返せねぇんだから。もうその辺でやめとけよ、ばあさん」
「はじめ君、待って」
「んまぁ、ばあさんですって!」
今度は怒りの矛先がこっちに向かってきそうだ。
でもそれで良かった。
俺に怒りが向けば、さんが今はこれ以上罵られずに済む。