第12章 星を見る少年/岩泉一
「岩ちゃん字ぃ汚っ!」
「うっせ! ガキの頃なんだから仕方ねぇだろ」
「やー懐かしい。そういやお互い目標書き合ったんだよね。“さいきょうのセッターとスパイカー”か……なんか、変わんないよね。昔から岩ちゃんって単純で」
「あぁ? テメェも似たようなこと書いてただろうが」
夫婦漫才みたいなやり取りに、こらえきれずに笑ってしまう。
そんな私を見て、はじめ君は困った顔で頭を掻いていた。
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「何ニヤニヤしてやがる及川」
「べっつにぃ」
「あんだよ。言いたいことあんなら言え」
電車に乗ってからというもの、及川は隣でずっとにやついていた。
そのにやついた顔が気色悪くて、肘で脇腹を小突いた。
「うえっ」
「その顔ヤメロ」
「ごめんて、岩ちゃん」
悪いなんて1ミリも思って無さそうな謝罪を及川はよこす。
その証拠に謝ってすぐにまたニヤニヤしながら俺を横目で見てきた。
ムカつくからもう1発、脇腹にお見舞いしてやった。
「だからそのにやついた顔をやめろ」
「無理だよ~」
「ハァ? 何が無理だよ」
また小突いてやろうか? と目で脅すと、及川はぶるぶると首を振る。
「だって、岩ちゃんが恋してる姿可愛すぎるんだもん。初々しくて」
「……お前頭でも打ったか」
「俺は正常だっての。…えっ、もしかして岩ちゃん、本当に気付いてないの? ちゃんと会っただけであんなに顔真っ赤にしてたのに」
「…俺は別に」
俺の反論を途中で遮って、及川が「それにさ」と続けた。
「心臓が痛い、ってやつも、ちゃんのこと考えた時限定なんじゃない?」
言われてみれば、そうかもしれない。
普段部活や体育でどんなに激しく動いても、心臓が痛くなることなんて無かった。
気になって受けた診察も、結果は異常なしだった。
まさか。
この胸の痛みは。
及川の言う通り、俺がさんに惚れてるからなのか。
言葉を返せねぇでいる俺に、及川の笑みが一層深くなる。
すっげえムカつくけど、何も言い返せねぇし、殴る気力も無かった。
頭に浮かぶさんの笑顔。
俺を見てにっこり笑うその姿に、また心臓がじくじくと痛み出した。
自分の気持ちを受け入れきれないまま、電車は学校前の駅に到着した。