第12章 星を見る少年/岩泉一
「少し脈拍が早いかな…他に変わった所はない? 熱は?」
そっとおでこに手を当てると、はじめ君の目が大きくなった。
そしてそのまますっと後ろに下がって、首を振る。
触られたのが嫌だったのかな。
「…大丈夫っす!」
大きな声に驚くと、はじめ君が申し訳なさそうな顔になった。
私に向けて突き出された手は、それ以上関わってくれるな、と言っているようだった。
「すんません。本当、大丈夫です」
「でも…」
医療に携わる者としては、不調を訴える人を放ってはおけない。
お節介に思われるだろうけれど、体の不調を放っておいていいことなんてひとつもないし。
だけど目をそらしたままこちらを見てくれないはじめ君に、これ以上近付くのは無理そうだった。
他人にベタベタ触れられるのが嫌なタイプなのかもしれない。
「何かあってからじゃ遅いから。ちゃんと病院で診てもらってね」
「…ッス」
なんとなく、はじめ君との間に壁を感じて、それ以上体調の話には触れなかった。
気まずい空気を変えようと、話題を変えることにした。
「あ、そうそう。これありがとう。ずっと借りててごめんね」
はじめ君に借りていたルールブックを差し出すと、はじめ君の背後から徹君がひょっこり顔をのぞかせた。
「その本懐かしい!」
「っ、及川いつからそこに?!」
「えー? 岩ちゃんがちゃんに脈測ってもらってるあたりから?」
「んだよ、なら早く声かけろよ!」
はじめ君が怒ると、徹君は舌を出して「ごめーん」と気の抜けた謝罪をはじめ君によこした。
「だって邪魔しちゃ悪いかなぁと思ってさ」
「余計な気遣うな」
2人のやりとりを見ていると、仲の良さが伝わってきて、つい笑みが浮かんでしまう。
一見喧嘩みたいに見えるじゃれ合いも、長い付き合いの彼らだからこそ出来ることだと、最近分かってきた。
「ふふ、ほんとに2人、仲がいいね」
「違ぇっす。ただの腐れ縁ってやつです」
「ひどいや岩ちゃん」
腐れ縁だって、はじめ君は否定するけれど。
2人の絆の深さは、この本にも書いてある。
「“もくひょう→おいかわとふたりで、さいきょうのセッターとスパイカーになる!”」
ぽかんとした表情の2人に、件の言葉が書かれたページを開いて見せる。
じっとそのページを凝視した後、はじめ君の顔は真っ赤になり、徹君はお腹を抱えて笑い出した。