第12章 星を見る少年/岩泉一
「わぁってるよ」
年寄りくさい及川の言葉にちょっとだけ笑いそうになった。
次の月曜日にでも病院に行くか。
吊革につかまりながらスマホで病院を検索する。
わりかし近所に幾つか候補があって、良さげな病院に印をつけた。
「なんともないといいね」
「そうだな」
学校まであと一駅。
ぼんやりと車内を眺めていたら、端っこの方に座っているさんの姿が目に入った。
俺が貸したルールブックを真剣な表情で読んでいる。
あんなに熱心に読んでくれるとは思ってなかったから、嬉しくなって頬が緩む。
「なにニヤニヤしてんのさ岩ちゃん」
「別に何でもねぇよ」
及川にさんを見てたことに気付かれたくなかった。
一心不乱にルールブックを読みふける可愛い姿なんか及川に見せたくねぇし。
……可愛い?
なんで俺そんなこと思って……。
その時、ドクンと心臓が飛び跳ねた。
遅れて鈍い痛みがやってくる。
「?」
謎の痛みに、俺は首を傾げるしかなかった。
******
はじめ君から本を借りてしばらく経った。
夜勤の日が続いたのもあって、はじめ君達とはここ最近会えていなかった。
ずっと本を借りたままなのも心苦しくて、いつでも返せるように鞄に入れて常に携帯していた。
はじめ君に連絡しようにも、連絡先を知らない。
一応初枝さんに「今度あった時に返す」と言付けてはいたけれど、直接本人に伝えられないもどかしさを感じていた。
「おはようございます。久しぶりっすね、会うの」
駅のホームで、はじめ君がこちらに駆けてきた。
はじめ君は軽く微笑んでいるように見える。
ずいぶん打ち解けてくれたんだなぁと思う。
出会った頃はまだ長袖だった制服も、今はもう半袖に変わっている。
はじめ君が打ち解けてくれたのも、知り合ってからしばらく経ったからだろう。
「おはよう。本当、久しぶりだね。会えて良かった」
微笑み返すと、はじめ君は胸のあたりをギュッと掴んで唇を噛みしめた。
心なしか顔が赤い。
どこか体調でも悪いのだろうか。
「どうしたの、はじめ君」
「いや、なんか……心臓が痛くて」
「えっ心臓?」
苦しそうに眉を寄せるはじめ君の手首を握って、脈をとる。
一瞬ビクッとしたかと思うと、はじめ君はそのまま微動だにせずに固まってしまった。