第12章 星を見る少年/岩泉一
加えて、群を抜いて強い牛島君という選手がいるらしい。
『東北のウシワカ』なんて呼ばれるくらい有名なのだそうだ。
試合が始まると、ボールや人があちこちに動いて、目で追うのがやっとだった。
ルールなんてボールを落とした方が負け、くらいの大ざっぱなルールしか知らなかったけれど、コートの熱気は確かに感じていた。
及川君がボールを上げると、上手い具合にその上がったボールをはじめ君が相手のコートに打ち込む。
凄いスピードでボールが飛んでって、気が付いたらもう床から跳ね上がっている。
はじめ君のパワーに圧倒されたのも束の間。
相手のサーブになった時、噂の牛島君の番がきた。
ボールは唸るように空を切り裂いてこっちのコートに飛んできた。
ボールを受けようとした人の腕を大きくはじいて、ボールはコート外へと逃げていった。
「あの子は、日本代表にも選ばれるような子だからねぇ。昔から強くて、はじめちゃんも徹くんもずっと勝てなくてね」
それでもいつか絶対倒すって、2人とも意気込んでいるんだよーーと、試合を眺めながら初枝さんが教えてくれた。
牛島君の攻撃が決まる度、はじめ君達は悔しそうな顔をしていた。
それでもコート内では「次とるぞ!」と声を出してチームの士気を落とさないよう気を配っている。
普段のはじめ君とはまた違う姿に、私の目は彼に釘付けになっていた。
ひたむきにボールを追う姿が、とてもまぶしく見えた。
強い強いと言われる白鳥沢相手に、はじめ君達も食らいついていった。
だけど試合は僅差で敗れ、青葉西城は準優勝という結果に終わった。
はじめ君達が2階席の方を向いて整列を始める。
皆、悔しそうな表情を浮かべていた。
点差は僅か2、3点だった。
どちらが勝ってもおかしくない試合だったと、素人ながら思う。
「ありがとうございました!」
及川君が挨拶をすると、それに続いて他の子達が声を揃える。
綺麗に並んだ男の子達の後頭部がよく見えた。
そんな彼らに対して、観客席からは惜しみない拍手が送られた。
そのまま表彰式へとうつり、準優勝の盾を及川君が受け取っていた。
表彰式まで見届けてから、初枝さんと1階のロビーへ向かった。
ロビーの人だかりの中に、白地に水色のラインが入ったジャージの集団を見つけた。
初枝さんと2人で近くを通りかかると、及川君が声をかけてくれた。