第12章 星を見る少年/岩泉一
「初枝ばあちゃん、ちゃん、応援ありがとう」
「惜しかったねぇ、徹ちゃん」
初枝さんは慣れた様子で声をかけていたけれど、私は彼らになんと声をかけていいのか分からなかった。
準優勝でも十分凄いと思うのだけれど、彼らは優勝を目指していたワケだし。
お疲れ様、くらいしか適当な言葉が見つからない。
「さん、今日はわざわざありがとうございました」
徹君が私達と話しているのを見かけて、はじめ君も声をかけてくれた。
ぴしっと角度の決まったお辞儀をされて、こちらまで畏まってしまう。
そんな丁寧にお礼を言われるほど、大したことはしていないのに。
「ううん、こちらこそありがとう」
「? なんでさんが礼を言うんすか」
「すごく、いいものを見せてもらったから。…試合は負けちゃったけど、はじめ君達のバレーしてる姿が、すごく熱くて。ひたむきに打ち込む姿がとても格好良かったし、力をもらえたの。ルール詳しくないけど、それでも見ていて面白い試合だったよ」
「…そうっすか。それは、良かったです」
少しだけ、はじめ君は照れくさそうにしていた。
そんなはじめ君の姿に、徹君がいつものように茶々を入れると、はじめ君のグーパンチが飛んだ。
鈍い音に顔をしかめる。
「岩ちゃん照れ隠しに俺を殴るのやめてよっ」
「うるせー、テメェが変なこと言うからだろうが」
試合に負けて、落ち込んでる部分もあっただろうけれど、普段と変わらないはじめ君と徹君のやり取りを見て少しホッとする。
学校までバスに乗って帰る青葉西城の子達を見送り、私も家路につくことにした。
******
数日後の朝、駅で会うなりはじめ君が鞄から何やら取り出した。
はじめ君が差し出してきたのは一冊の本だった。
ずいぶんボロボロになっていて、ところどころ付箋が飛び出している。
表紙には大きな文字で「はじめてのバレーボール」と書かれてある。
「これは……」
「子供向けに書いてあるんすけど、バレーのルールが分かりやすく書いてあるんで。…こないだルール分かんねぇって言ってたから。ルール分かるともっと面白いと思うんで」
「それでわざわざ?」
「はい。良かったら読んで下さい」
驚いた。
バレーが好きなはじめ君だからだろうけれど。
この間のちょっとした会話を覚えてて、本まで貸してくれるなんて。