第12章 星を見る少年/岩泉一
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インターハイ予選決勝の日がやって来た。
「岩ちゃん、今日ちゃん応援に来ないの?」
2階席で黄色い声を上げてる女子に手を振っていた及川が、ふいに俺の方に振り返った。
駅で何度か会ううちに、及川はすっかりさんとお友達感覚になったようで、少し前さんに会った時に「試合見に来てね」なんてほざいていた。
その時はまだ仕事かどうか分からなかったからか、行けたら行くね、とさんは答えた。
それからその話はしたことが無かったから、今日の試合を見に来るのかどうかは分からねぇ。
「さぁ。仕事なんじゃねぇか」
「えー、ちゃんと聞いておいてよ。モチベーション変わってくるからさぁ」
「んな事で変えんなよ」
「分かってないなぁ、岩ちゃんは」
及川の言い分なんかひとつも分かりたくもねぇ。
大体いつもファンだなんだって名乗ってるヤツらに黄色い声飛ばされてるくせに。
それで十分だろうが。
「あっ! やっほー、ちゃん! 初枝ばあちゃんも! 応援ヨロシクねー!!」
急に及川が声を上げ、大きく手を振った。
視線を2階席に走らせれば、後方にばあちゃんと一緒にさんの姿があった。
俺と目が合うと、ニコッと笑ってさんが手を振る。
振り返すのは気恥ずかしくて、目を合わせたまま軽く頭を下げた。
「岩ちゃんだけズルい!! ちゃん俺にも手振ってー!」
及川の呼びかけに、さんは律儀に答えていた。
だがそのせいで、及川を追っかけてる女子の鋭い目が、一斉にさんへと向かった。
何も知らないさんは急に周りの人間にジロジロ見られ出して居心地が悪そうにしている。
及川が声なんてかけなければ、あんな風にならなかったのに。
「クソ川、アップに集中しろ!」
及川の尻めがけて蹴りを1発。
大袈裟に痛がる及川を尻目に、アップに戻った。
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初めて、こんなに間近でバレーの試合を見た。
今日の試合は、インターハイに出場する学校を決める試合で、決勝戦なのだそうだ。
だからこの試合に勝てば、はじめ君達の学校ーー青葉西城がインターハイに出場出来るということ。
対戦相手は、白鳥沢学園。
初枝さん曰く、強豪校で全国大会出場の常連校なのだそうだ。