第12章 星を見る少年/岩泉一
向こうが俺のことを『はじめ君』と呼ぶのも、ばあちゃんが俺のことを『はじめちゃん』って呼んでるからだろうし。
「何、何なの、その意味深な一言……」
一体何を深読みしているのか、及川は大袈裟な反応を見せている。
面倒くせぇけど、ちゃんと説明しとかねぇと無いこと無いこと勝手に並べ立てそうだ。
及川に一から説明しようと口を開きかけたとき、花巻と松川がやって来た。
「はよっす」
「おはよ」
あくびをかみ殺した花巻に、及川がすごい勢いで詰め寄る。
会っていきなり顔を近づけてきた及川に、花巻は後ずさりした。
「聞いてよ、マッキー! 松っつん! 岩ちゃんが…岩ちゃんが…大人の階段を昇ったんだよぉ!」
「はぁ? どゆ事?」
話が全く見えない、といった顔で花巻と松川は視線を及川から俺へと移す。
説明も聞かずにデタラメを吹き込みやがった及川に拳を見舞った。
「及川、テメェ適当なこと言うんじゃねぇよ!」
「いった! 岩ちゃん、痛い!」
ただ名前呼んだだけじゃねぇか。
そこからなんで『大人の階段』昇ったことになるんだ、ボゲェ!
頭を押さえる及川ににらみを飛ばした。
「何、岩泉何の話よ」
花巻達に説明すんのがややこしくなっちまったじゃねぇか。
クソ及川め。
「この人、さん」
言って、俺の後ろに隠れてしまっていたさんを皆の前に引き出す。
急に引き出されたのにビックリしたのか、さんはかちこちに固まったままだ。
「あれ、そのおねえさん…」
「こないだの?」
花巻と松川の問いに、俺の代わりにさんがこくりと頷く。
「たまたま俺のばあちゃんが入院してるとこの看護師さんだったんだよ。だから知り合いになったわけ」
「でも、名前で呼び合うなんてさぁ」
「随分親しげじゃない?」なんて及川はジト目で俺とさんを交互に見やる。
「そっか、そういえばちゃんと自己紹介してなかったよね。改めまして、です」
綺麗なお辞儀をするさんの髪の毛が、流れるように肩からこぼれていく。
陽の光を浴びて輝く長い髪がとても綺麗だ。
「岩いず「及川徹です! 徹ちゃんって呼んで下さい」
「人の自己紹介に被せてくんなボゲェ!」
「花巻貴大です」
「松川一静です」