第10章 これからの話をしよう/天童覚
「…あ、もしかしてコレが『好きな子ほどいじめたくなる』ってやつなのカナ?」
天童君は今まさに閃いたとでもいうような顔をしていた。
彼の口からこぼれた『好き』の言葉に、私の心音は刻むリズムを早めている。
こんなことって、ある?
それまで話をしたこともないクラスメイトと恋に落ちるなんてこと、あるの?
それもあんなきっかけで。
さらにこんな『告白』なんてーー。
思い描いていた甘い恋の始まりには到底届きそうもなくて、溜息しか出ない。
「それって、告白と捉えていいの?」
困惑した表情を浮かべている私を見て、天童君はニヤッと笑う。
「いいよ」
天童君の大きな目が細くなって、口の端がぐっと上がっていく。
ああ、また。
どこか不気味なはずなのに、天童君のその笑みから私は目が離せなくなっていた。
「返事は」
言いながら、天童君がじわじわと距離を詰めてくる。
ただでさえ近かった距離は、ほぼゼロになっていた。
「オッケーってことでいいんだよね?」
吐息がかかるほどの距離で囁かれて、背筋がゾクゾクと震えた。
だけど色々納得いかなかったから、私は素直に肯定できずにいた。
天童君から目をそらして黙ったままの私に、天童君は遠慮無しに視線を送ってくる。
ゼロの距離で見つめられているのが恥ずかしくて、彼と距離を取ろうと後ろへ一歩下がる。
すると天童君はすかさず一歩詰めてきた。
ふたたびゼロになった距離に、息をするのさえ苦しい。
「……なんかこれってさ」
どこか聞き覚えのある言葉を天童君が口にして、思わず彼の目を見た。
天童君の瞳の中には、どこか怯えた目をした私が映っている。
そんな私の顔を見て、また天童君がニヤッと笑う。
「絶好のキスシーンだよね」
資料室での言葉を繰り返した天童君は、言い終えるなりためらいもなく私に唇を押しつけた。
こうなると分かっていたのに、動けなかった。
…いや、こうなると分かっていたから、動かなかったんだ。
私はどこかで天童君にこうされるのを望んでいた。
「…拒否しないってことは、今度こそ付き合ってくれる?」
「……」
「返事してくれなきゃ、またしちゃうよ? …俺としてはその方がウレシイけど」
言って天童君は本当に二回目のキスをした。
今度はさっきよりも強く長いキスだった。