第10章 これからの話をしよう/天童覚
私にはやっぱり、彼の事は掴めないと思った。
何を考えているのかよく分からない。
…分かる必要性は、特に感じないからいいんだけれど。
何が楽しいのか職員室まで天童君は鼻歌まじりだった。
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多田野先生からのありがたい罰は、なんとも面倒な雑用だった。
先生の使う資料室の整理。
新しい資料と入れ替えをするそうで、古いものを取り出してまとめるのが私達の仕事だそうだ。
「体の良い雑用係じゃんねー」
「…そうだね」
ブーブー文句を言う天童君を横目に、私はもくもくと手を動かしていた。
さっさと終わらせて部活に行きたかったし、文句を言ったって雑用は勝手に終わってくれないし。
雑談にのってこない私がつまらないと思ったのか、そのうち天童君も黙って整理を始めた。
「…はー、これ今日中に終わるのかなー」
天童君の言葉が、独り言なのか、私に向けての言葉なのか、判断が付かない。
だから何も返事せずに黙々と古い資料を箱につめることに専念する。
返事がなければないで、彼は気にしないだろう。なんとなくそんな気がする。
ほんとに返事が欲しければ、何かアクションをとってきそうな気がするし。
「…あー、棚の上にもいっぱいあるし」
よっ、と小さく言って天童君が背伸びをしたのが視界に入った。
「あっ」
天童君の声がしたと思ったら、大量の資料が頭上から降ってきた。
鈍い音をたてて、ぶつかって資料は床に散らばった。
痛みを覚悟して目をぎゅっと目をつむっていた私だったけれど、ひとつも痛くなくて、不思議に思ってそっと目を開けた。
「…!」
「ダイジョーブ? さん」
眼前に、天童君の顔があった。
私に覆いかぶさるようにして立っている天童君の頭や制服は埃にまみれている。
もしかして、かばってくれた…?
「う、うん、大丈夫…天童君こそ、大丈夫?」
「俺? 俺はヘーキだよー」
床に散らばる資料の中には分厚い本もあった。
多田野先生の教科書攻撃よりも痛かったはずなのに、それをみせようとしない天童君の優しさに少しだけ感動した。
男の矜持、ってやつなのかもしれないけど。
私にそんなもの見せたってしようがないだろうに。
「……なんかこれってさ」
天童君の顔が、さらにぐっと近寄ってくる。
彼にはパーソナルスペースというものがないのだろうか。