第10章 これからの話をしよう/天童覚
こっちに向いた天童君の顔が「ごめんね」って言ってる。
申し訳なさそうに下がった眉と口端に、小さく首を振って見せた。
******
授業が終わって、多田野先生の言いつけどおり職員室へと天童君と2人で向かうことにした。
本音はどう思ってるかは分からなかったけれど、申し訳なさそうな顔で天童君が話しかけてきた。
「さん、ごめんねー。俺のせいで巻き添え食っちゃって」
「…ううん。…というか、私もごめん」
「??? ナニが???」
本当に頭の上に疑問符が浮かんでいるみたいに、天童君は思い切り首をかしげた。
首が折れそうなくらいの傾きに少し引きながら、件の落書きのことに言及する。
「天童君が笑った原因。あの、落書きでしょ? 肖像画の」
「…! アレ! 超ウケた!! センセーにソックリだったからさー!! 」
「…やっぱり。ごめんね、変な落書きしてて」
「??? なんで謝るの??」
「え、だって、あの落書きのせいで天童君余計に怒られることになったから」
「…さんてさーマジメだよねー見た目どおり」
マジメ。
それが誉め言葉と受け取っていいのかどうか、微妙なニュアンスを含んでいることは、前からなんとなく感じていた。
融通が利かない、堅物。
天童君みたいな明るい人達の言う「マジメ」とは、そんな意味合いの方が強い。
自覚はしている。いわゆる優等生の枠から外れることはしない、いい子ちゃんだと。
そうありたいと自分で願っているわけではないのだ。
ただ、そういう性分なだけ。
「…そうだね、面白みのない人間ですよ私は」
つい、嫌味な返答をしてしまった。
天童君の言葉には深い意味は無かっただろうに、過剰に反応してしまった。
気を悪くしただろうか。
「えー?! めっちゃ面白いと思うけど! だってあんなイラスト描いちゃうんダヨ? あのこわーい多田野センセーの」
言ってまた思い出したのか、天童君が笑い出す。
この人は底抜けに明るいのかな。
特別親しくもない人間の前で、こんな風にあっけらかんと笑えるなんて、少し羨ましい。
私とは正反対な人だ。
日の当たる場所にいる人。注目を浴びるような場所にいる、そんな人。
「…天童君て、変わってるね」
「あはっ、よく言われる!」
誉め言葉に聞こえないはずの言葉も、天童君は明るく受け止めた。