第10章 これからの話をしよう/天童覚
「…それと天童。読んでいる途中、何故急に笑い出した?」
「へっ?」
「へっ、ではない。授業中に笑うとは言語道断!」
「すみません」
気のない謝罪をよこす天童君が気にくわないのだろう、先生の眉間の皴はどんどん深くなっていく。
それでも天童君は笑った理由を口にしなかった。
その代わりに、また急に噴き出した。
多分思い出し笑いだったんだろうけれど、先生にしてみれば叱責の途中に笑われてよほど腹が立つ態度に思えたに違いない。
分厚い教科書の角が、天童君の頭に鈍い音を響かせた。
痛みに天童君が顔をしかめる。
横でそれを見ていただけの私も、彼と同じ顔になった。
先生も結構な勢いでぶつけていたから、あれはそうとう痛いと思う。
「何がおかしい天童! お前のせいで授業が中断しているんだぞ! 分かっているのか!」
「…はい、すみません」
今度はさすがの天童君もしおらしく謝罪する。
先生の怒りはまだおさまっていなさそうだったけれど、これ以上授業を中断したくなかったのか、天童君から教科書を取り上げて私の机へと放って教卓の方へと戻っていく。
少し乱暴に置かれた教科書に目をやる。
開かれたページに既視感を覚えて、そこでようやく、天童君が笑った理由が分かった。
…肖像画の落書き。
あまりにも多田野先生に似てる肖像画を見つけて、髪の毛とか顔の皴とかを書き足していたこと、すっかり忘れていた。
まさか今日、どんぴしゃでそのページを天童君が目にするとは思ってもみなかった。
天童君は運悪く、この幼稚な落書きを目にしてしまった。
ただでさえ緊張感のある多田野先生の授業だ。
この妙な落書きが笑いの引き金になってしまったに違いない。
天童君、ごめん。
君が怒られたのは、半分は私のせいだね…。
あとで謝ろう…。
「…天童とは後で、職員室に来ること。いいな」
「えっ、さんもですか?」
天童君が私に代わって、驚いたように先生に聞き返した。
先生は至極当然だ、といった顔で私達2人を見ていた。
「初日に説明したはずだぞ。教科書を貸した者も同罪とみなす、と」
…そういえば一番最初の授業でそんな事言ってたかも…。
今までそんな場面に遭遇することなかったから、すっかり忘れていたけれど。