第7章 走れサンタ!/二口堅治
「はぁ? 晒し者にすんのかよ……」
いつも部活で威張り散らしてる(つもりは二口にはないが)先輩が、サンタの恰好をして売れないケーキに頭を抱えている姿を喜々として撮影しようとしている黄金川を、二口はひと睨みしてしまった。
ケーキを買ってくれた恩人に対して思わずそんな視線を向けてしまったことを二口は反省した。けれどやっぱり黄金川に写真を撮られるのは納得がいかなかった。
「誤解ッス!! みんなに宣伝しようと思ったんです!!」
「宣伝……おぉ、宣伝!! やってくれやってくれ!!」
急に笑顔で乗り気になった二口に、黄金川の顔も明るくなった。数回シャッターを切り、よさそうな写真を選んで黄金川は手当たり次第にその写真を送った。
『二口サンタが待ってます! ケーキ買ってください!!(超切実)』の文字を添えて。
黄金川が写真を送って数分もしないうちに、黄金川の携帯は賑やかに鳴る。電話やらメールの返信やら、それはそれは賑やかだった。
その間も声をからしながら、二口は道行く人にケーキをすすめて回る。運よく数人、大きなホールケーキを買ってくれて、店頭に残るケーキは少しずつ数を減らしていった。
「じゃあ、俺帰りますんで! 頑張ってください、二口先輩!!」
「おう、黄金サンキューな! 今度なんか奢る」
「マジっすか!!あざーす!」
つんと伸びた前髪を揺らしながら帰って行く黄金川を見送った後しばらくして、見知った顔が続々と二口の前に現れた。
「……」
「おう、青根。え、ケーキ買ってくれんの?」
「……(こくん)」
「マジか! サンキュー、助かるわ!」
「……(こくん)」
青根は大きなホールケーキを二つ抱えて帰って行った。甘いものが好きな青根の事だから、ホール二つくらい軽く平らげてしまうに違いない。
「二口君、仕方ねぇから来てやったぜー?」
「うっわ鎌先さん。え、もしかしてケーキ買ってくれるんすか?」
「んだよ、一肌脱いでやろうと思ったのにその言い方はよ」
「いやだって、ホールケーキっすよ?一人で食べるとか寂しさここに極まれりじゃないッスか」
「おま、買ってほしいんじゃねぇのかよ?!困ってんだろ?!」
「困ってます」
「素直にそう言や良いのによぉ。こんな時まで喧嘩売んなよ」
「すいません、つい」