第7章 走れサンタ!/二口堅治
「君のしたことはバイトとはいえ、許されることではないよ。単発バイトだからといって、こんな無責任な人間は見たことがない。……本当は今すぐにでも帰ってもらいたいところだけれど、反省はしているようだから……ここにあるケーキ、全部売ったらチャラにしてあげる。幸い、現金も商品も無事だったからね」
ずいぶんと甘い店長だと思いながらも、二口はその処分を黙って受け入れた。一発は殴られるだろうと覚悟していた二口はどこか拍子抜けしてしまったが、店頭に並んだケーキの箱を見て、気合を入れなおした。
「あと20個……売れるのかね……」
通りの時計を見れば、時刻は19時を回っている。どんなに遅くても22時までしか働けないから、あと3時間で20個売り切ってしまわなければならない。時間が経てば経つほど、ケーキを買って行く人は少なくなっていくだろうことは想像に難くない。
夕方から店頭にたって販売しても、あと20も残っているのだ。かなり厳しい事は目に見えていた。
立ち止まっていても仕方がない、と二口は顔を上げて、ベルを鳴らす。音に視線を向けてくれる人はちらほらいるものの、それがケーキの販売だと分かると皆さっと目をそらしてしまう。
いちいちそんな反応に傷ついているわけにもいかず、二口は持てる限りの力を振り絞って、大声でケーキの購入を促した。
「二口先輩バイトっすか? お疲れ様っす!!」
声も枯れかけた頃、暖かそうなマフラーに顔をうずめた黄金川が二口の前を通りかかった。これ幸いと二口は黄金川の腕をがっしりと掴んで、顔を近づける。
「黄金!!頼む、ケーキ買ってくれ!!」
「えっ!?」
後輩に売りつけるという最終手段に踏み切ってしまうほど、今の二口は追い詰められていた。売れ残りのケーキ達はうらめしそうに二口を見ている。さっき人違いの二人を追いかけていなければ、僕達はここにいなかったかもしれないのに、と箱の中から訴えてくるような気がするのだ。
「頼む。売れないと帰れないんだ……」
「二口先輩……」
がっくりと肩を落とす二口を哀れに思ったのか、黄金川はなけなしの小遣いをはたいて、ケーキを買って帰ることにした。黄金川が買ったのは小ぶりな方のホールケーキだったが、二口にはそれでも有難かった。
「先輩、写メ撮ってもいいっすか?」
「あ? なんで」
「みんなに送るッス」