第7章 走れサンタ!/二口堅治
なんだかんだ言いながらも良き先輩の姿を見せたかった鎌先も、ホールケーキを二つ抱えて帰って行く。
「ケーキ買いに来たよ」
「お、滑っちゃん! 伊達工の女神!!」
「はいはい、お世辞はいいからケーキちょうだい」
「マジでありがとうな!」
「いいえ。たまたまこっちに用事あったついでだし」
素直じゃない伊達工マネージャーは照れながらもケーキの箱を抱えて帰って行く。
「二口、どうだ全部売れそうか?」
「茂庭さん……」
先ほど見間違えて恋敵だと思ってしまった茂庭が現れて、二口は若干動揺してしまった。茂庭はいつもと変わらない様子だった。自分を前にしていつもの小生意気な態度をとらない二口に、茂庭は怪訝そうに二口の顔をのぞきこんだ。
「どうした?二口」
「あ、いえ。……ケーキ、買って行ってもらえます?」
「おう、そのつもりで来たからな。ひとつだけで悪いけど」
「あざっす。ひとつでも助かります」
二口が茂庭から代金を受け取ると、茂庭はがさごそと鞄から何やら取り出し始めた。そして二口に手を出すように要求すると、二口の手のひらに茂庭はそっと温かいものを乗せた。
「ずっと外にいるんだろ? 風邪ひくなよ」
「……あざっす」
二口の手のひらの上には、カイロがひとつ。茂庭が渡してきたカイロは、彼の心と同じようにぽかぽかと温かかった。
いつだって優しい茂庭が、二口に黙ってと付き合うはずない、と今ようやく二口は分かった。
もし相談に乗るうちに茂庭が、がお互いに恋愛感情を抱いたとしても。そうなったことをどちらかが、二口に告げるはずだ。茂庭も、も。そんな人間だ。
そのはずなのに、何故先ほどはあんなに思い込んでしまったのだろう。自分が二人を信頼していなかったから、思い込んでしまったのだろうか、と二口は自分が自分で嫌になった。
「あともう少しだな、頑張れよ」
「……茂庭さん」
「ん?」
「俺、茂庭さんのこと、好きっすよ」
「ど、どうした二口?! ゆ、雪でも降るんじゃ……」
いつもの二口らしくない言葉に、茂庭は寒さとはまた違った意味で震えていた。けれどサンタの恰好が板についてきた二口はいつもの様に笑っている。
「ふはっ、そっすね。降ってますね、雪」
二人して見上げた空からは、雪がひらひらと舞い降りてくる。