第1章 マカロンにまつわるエトセトラ/東峰旭
2人で入店待ちの列に並んでしばらくすると、後方からひそひそとした会話が聞こえてきた。
「ねぇ、一緒に並んでくれる彼氏とかよくない?」
「ホント羨ましい~。ウチのなんか絶対ムリ。ここの店行くのも恥ずかしがるし」
隣の東峰がその会話にピクリと反応したのをは横目で確認した。
後方の彼女達の言う『彼氏』が東峰を指すのか、とも一瞬思ったが、2人の前にも何組か男女で並んでいる人達がいたため、その人達もひっくるめて言っているのだろう、と1人納得していた。
「しかもあんなガッチリした体格の人がここの店の行列に並んでるとか。ギャップ凄いよね」
「分かる~!でもだからこそ良くない?いいなぁそういう彼氏どっかに落ちてないかな」
「そこらへんに転がってる訳ないじゃん~」
後方の彼女達が、ひそひそ声から一転してキャハハハと賑やかに笑い出す。
どうやら彼女達が話題にしていたのは東峰だったようだ。
東峰もそれを確信したのか、次第にいかつい表情に変化していく。
「東峰、どうしたの?」
小刻みに震えながら、の方を向いた東峰の口から出た言葉は。
「お、俺、なんか悪口言われてる……?」
こんな姿を見たら、また後方の彼女達は「ギャップが」と騒ぎ立てるに違いない。
図体ばかりでっかくて、どこまでも繊細な東峰に、の眉尻は緩やかに下がっていく。
「違う違う。悪口っていうか、むしろ褒められてるんだと思うよ」
「えっ、そ、そう?そうなの?……でもなんで褒められてるのか、わかんない……」
「っ、くくっ」
「?!えっ何?!なんで笑うの」
「ごめ、東峰が、あんまり可愛くて」
それ以降は思い出したように笑いをこらえるの姿に、困った顔で頭を搔く東峰の姿があった。
20分ほど並んだところで、東峰達に入店の順番が回ってきた。
店員の誘導に従って店内へと足を踏み入れる。
マカロンはこの店の人気の商品らしく、ホワイトデーにあわせてマカロンだけのコーナーが作られていた。
陳列された商品は次々と客の手に渡り、並べられた商品はあとわずかだった。
商品を吟味する時間もなく、東峰は近くにあった小箱をいくつか手にとり、会計に向かった。
人波をかきわけてレジへ向かう東峰の背に、先に外に出ていることを告げ、は店外へ脱出した。