第1章 プロローグ
「なんで子供なんか生んだんだっ!下ろせと言っただろう!!」
「貴方だって優秀な後継ぎが欲しいって言ってたじゃない!」
「あいつは全然優秀なんかじゃない!うちの研究所のモルモットの方がまだましだっ!」
「それに子供が嫌いだなんて一言も言ってなかったじゃない!浮気だって!!」
「嗚呼!嫌いだよ!大嫌いさっ!物覚えの悪い単細胞のような子供はなっ!」
がっしゃーんとガラスの割れる音がした。
僕はあの音がとても怖くて嫌だ。
耳の中が壊れちゃうよ。
お父さんとお母さんがまた僕のことで喧嘩してる。
もう、こんなの聞きたくないのに。
お父さんの取り返しはつかないんだぞっ!というもの凄い怒声にびくっと肩が跳ねた。お母さんの叫び声が聞こえる。
嫌だ、もうこんなの。
なんで、どうして。
どうして、僕なの?
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自分で握ったおにぎりは不細工な形をしていて、不器用な僕が握ったんだってすぐばれてしまうだろうな。
でも、それすらも気づいてくれる人がいない。
僕はやっぱり独りぼっちだ。
眠って起きたら何か変わっているかもしれない。そんな淡い希望はとうの昔に捨てた筈なのに。
遠くの公園で楽しそうに笑い合う親子の姿。
僕はなんだか見ているのが嫌になって、家までの道を走り出した。
玄関の扉は開いていた。
おかしいな、いつも鍵がかかっているのに。
僕は靴を脱いで中に入る。
おかしいな、誰もいないのかな。
声をかけると怒られるから、僕はこっそりリビングに歩いていく。
部屋は真っ暗。
台所は転がったペットボトルと大量の液体で満たされていた。
リビングのドアを開けた。
お母さんとお父さんがソファで仲良く眠っている。
なんだ、二人とも眠ってたんだ。
それなら静かでも仕方ないね。
お父さんいつもいびきが凄いのに今日は静かに眠ってる。
お母さんいつもお父さんと仲悪いのに幸せそうに眠ってる。
二人とも仲直りしたのかな。
そうだったらいいな。
僕は二人の膝の上に乗ってみた。
全然起きないや。
少しだけなら、いいよね。